『いつかの夏へ』
6
「大丈夫か?」
雅樹のアパートに戻って来た。
夢中でしがみついていた手は強く握りすぎたせいで開かなくなっていた。
雅樹がソッと手を取って指を開かせてくれた。
それでもまだ手が小刻みに震えているのを見て雅樹は私の手をすっぽりと包み込んだ。
「怖かったか?」
私は黙って頷いた。
「でも…風が気持ちよかった」
「そっか」
震える声で伝えると雅樹は嬉しそうに笑ってくれた。
バイクから降りると震える私を降ろして抱きしめてくれた。
大きな手が何度も背中を擦ってくれている。
「俺の後ろはもうお前しか乗せない。意味分かるな?」
「うん」
好きになった人は他にもいた。
だけどこんなに胸が苦しくなったのも触れられただけでドキドキするのも初めてだった。
「この手を離すなよ。俺もずっと握っててやる」
雅樹は手をぎゅっと握ってくれた。
私も初めて自分から握り返した。
雅樹は少し驚いた顔をしてから照れたような笑顔を見せると三回目のキスをした。
自分が自分でなくなるような気がして雅樹の隣にいるのが怖かった。
それでも隣にいたいと心が強く求め始めていた。
ずっとずっと一緒にいられると信じてた。
そして季節は春から夏へ…。
[*前] | [次#]
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]