『いつかの夏へ』
4
「あのさ、彼氏いる?」
あまりに唐突な質問だった。
正直面食らってすぐに返事が出来ずに固まってしまった。
けれど目の前の瀬戸くんは返事を待っているのか黙ったままだった。
(どうして聞かれたんだろう?)
もしかしたら瀬戸くんも間が持たなかっただけかもしれない。
「いない…よ」
「そう」
短く答えると瀬戸くんは視線を窓の方へとずらしてしまった。
(なんだったんだろう)
結局その話題はそこで終わってまた気まずい沈黙が流れる。
「ねぇ、単車乗った事ある?」
ポツと何の前触れもなく聞かれた。
空気が…二人を包む空気が張りつめてて相手の息づかい一つでもぴりぴりと震えるような感じがした。
ほんの少しだけ瀬戸くんの声が震えてる気がする。
もしかしたら瀬戸くんもそう思っているのかもしれない…なんてぼんやり思っていた。
「ううん、一度もないよ」
「今度乗せてやるよ」
「いいの?でも怖くない?」
少し不安そうな表情をする私に極上の笑顔を向けた。
久し振りに見るあの楽しそうな笑顔だ。
「気持ちいい!走ったら嫌な事全部忘れる!真子も絶対気に入る!」
話し方も笑い方もすごく好きになっていた。
その声で真子と呼んでくれるのが一番好きだった。
私はもう雅樹から目が離せなくなっていた。
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