『いつかの夏へ』
1
雅樹にジュースを奢る機会は訪れないまま三年になった。
三年になって同じクラスになった私達の運命は大きく動き出す。
「今日も瀬戸は遅刻かぁ?」
先生は面倒くさそうな声を出すのが日課になっていた。
三年になってますます遅刻や欠席が増えたらしい。
髪も相変わらず茶色で三年になって大人っぽくなった瀬戸くんは前よりも迫力があった。
同じクラスになった瀬戸くんとは運命のいたずらか偶然か前後の席になった。
けれどその席に朝から彼が座っている事は少ない。
(ジュース奢らなくていいのかなぁ)
学校へ来てもいつも違うクラスの中尾くん達と廊下で喋っていて話す機会はなかった。
もちろん自分から声を掛ける勇気がなかったのもあった。
実力テストの日、少し学校で勉強をしようと朝早く学校へ来た。
教室に着いて眠い目をこすりながら扉を開けた。
バコンッ!!
「キャァァッ!!」
何かが私の左頬を掠めて壁にぶち当たった。
私は教室に一歩足を踏み入れたまま動けなくなってしまった。
(え…な、なに…?)
足元を見るとコロンと潰れたパックのジュースが転がってきた。
「あ、悪ィ!当たった?」
投げた本人が慌てて近寄ってきた。
それもまた意外な人物で私は二重で驚いてしまった。
「大丈夫。びっくりしただけ」
私はジュースを拾ってゴミ箱に捨てて顔を上げた。
目の前には瀬戸くんが立っていた。
「あ…真子か。はよ」
「お、おはよ…」
瀬戸くんは軽く挨拶すると自分の席へ戻って行った。
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