『拍手小説』
も4-1

 昼間は陽射しがあるせいか暖かいのに朝晩はかなり冷え込むようになった。

「ただいま……っと」

 深夜いつものように帰宅した俺は灯されていた玄関の明かりを消すとそのままバスルームへと入った。

 煙草と香水の匂いにする服を脱ぎ熱めのシャワーを浴びる。

 麻衣は気にしていないがやはり仕事とはいえ他の女性の匂いをさせた体で抱きしめたくはない。

 肌や髪の匂いも洗い流して綺麗になった体にようやく愛しい人のそばに潜り込めると手早く体の水滴を拭う。

 用意されていたパジャマを着ながら乱暴に濡れた髪を拭いた俺は濡れたタオルを放り投げて新しいタオルを掴むとそのまま寝室へと向かった。

 ほんの数メートルの距離なのに寝室に着くまでに濡れた髪は冷たくなり始めている。

 そろそろシャワーだけだと麻衣が怒るなぁ……。

 怒る姿を想像しながら寝室のドアを開けると麻衣の見事な寝姿が飛び込んで来た。

 俺が寒いって言ったからか?

 用意されていた毛布を見て麻衣の寝相の理由が分かった。

 風邪引くっつーの。

 体のほとんどに布団が掛けられていない麻衣が風邪を引かないように布団を掛けてやらないといけないのにその姿に思わず見入ってしまった。

 毛布と布団を胸の中に抱き込み足で挟みこんでいる。

 俺としては布団にさえ嫉妬心が芽生えてしまいそうな光景に苦笑いだった。

「陸ぅ……」

 名前を呼ぶ小さな声に起こしてしまったかと思ったがどうやら寝言だったらしく相変わらず布団を離そうとしない。

 どうしたもんかとベッドに腰掛け眺めていた俺は次の瞬間ドキッとした。

「り、くぅ……」

 可愛い声で名前を呼んだ麻衣は布団に顔をすり寄せて布団を強く抱き足を絡ませる。

 俺の夢を見てるの?

 そう思ったら自然と頬が緩んでしまう。

 俺は麻衣に寄り添うように寝転がると麻衣の耳元に口を寄せた。

「麻衣、俺はこっちだよ。おいで……」

 届くか分からないが夢を見ていると麻衣に届けばいいと声を掛けると眠っている麻衣がモゾモゾと動いた。

「んっ……」

 寝返りを打った麻衣が俺に体をすり寄せるように抱き着いてきた。

 可愛いっ!

 俺はすっかり冷えてしまった麻衣の体を抱き寄せて二人の体を布団で覆った。

 何よりも俺を温めてくれる麻衣がそばに居てくれれば毛布なんか必要ない、今年の冬もずっと麻衣を抱きしめて眠るからね。


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