『拍手小説』
【陸&麻衣】
何の予定もない、いつも通りの週末。
陸と麻衣の二人は連れ立って映画館も併設されているショッピングセンターへと来ていた。
「結構な量になっちゃったね」
買い込んだ食料品はエコバッグ二つが膨れ上がるほどの量になり、どうにか詰め込むことが出来た麻衣はホッと息を吐いた。
「たまにはいいじゃん? だいたいー麻衣はいつもケチケチしすぎなの」
「別にケチケチしてるつもりはないし……。今日はたまたまいつも行くスーパーとは違うからつい、なんとなく……」
普段行かないスーパーだとどうしてアレもコレも目に付いてしまうのか、麻衣は袋を見下ろしながらすでに後悔し始めていた。
再び深いため息を吐きそうな麻衣の様子に陸はわざとらしいほど明るい声を出した。
「だーかーら、何でそこで落ち込むの? たまにはいいじゃん。それに……楽しそうに買い物してる麻衣がすげー可愛かったから、俺的には毎回こうだと嬉しいんだけど」
「陸……」
「ほーら、そんな顔しないで。今日はシュークリームも買って帰るでしょ? 早く帰ろ」
鼻歌でも飛び出しそうな陸はエコバッグを持ち上げると両手に一つずつぶら下げる。
ずしりとした重さにもう一度持ち直した陸は自分の両手を交互に見比べると、二つの袋を片手で持ちそれから少し考えるような表情を浮かべてから麻衣の顔を見た。
「陸?」
「こっちかな?」
再び両手に一つずつ袋を提げる陸は腕を上下に動かし、重さを量るような仕草をしてから一つを麻衣に差し出した。
「あ……ごめんね。重かったよね」
買い物の時はいつも陸が持つということが常だっただけに、何も考えず陸が持つのを待っていた麻衣は慌てて袋に手を伸ばす。
膨らんではいるものの、軽い物が占めている袋はそれほどの重さではなく、麻衣はますます申し訳ないような気持ちになった。
「違うって。片手で持つのはちょっと重いんだけど……両手で持つのは困るから」
「困るってなんで?」
「麻衣と手が繋げないでしょ?」
当たり前のように返された麻衣が不思議そうな顔をすると陸は空いている麻衣の手を取った。
「片手は麻衣と手を繋ぐために空けておかなきゃ、でしょ?」
ギュッと手を繋いだ陸がその手を持ち上げてニコッと笑うと麻衣は照れくさそうに頬を染めて顔をプイとそむけた。
「買い物の時くらい繋がなくてもいいのに……」
「麻ー衣? なんか言った?」
「何も言って、ない」
「嘘だ。なんか可愛くないこと言ったでしょ? あーあ、俺はいつだってどんな時だって麻衣とくっついてたいのに、麻衣は違うんだー愛されてないのかなぁ」
「そ、そんなことっ!!」
慌てて陸の方へと向き直った麻衣は目の前で嬉しそうに笑う陸と目が合って悔しそうに顔を歪める。
「もうっ!」
「さっ、次はシュークリーム!」
意気揚々と歩き出した陸に手を引かれ、麻衣もまた口元に笑みを浮かべて歩き出した。
end
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