『拍手小説』
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 八月某日、市内某所――

 仕事の帰りのサラリーマンやまだ学生らしきグループが生温い風の吹くビルの屋上でビール片手に思い思いに騒いでいる。

 その中に妙な取り合わせの五人の男が座るテーブルがあり、共通点の見つけられない彼らの唯一の共通点といえば全員がピンク色の怪しげなハガキを持っていることだ。

「ただのチラシかと思って捨てるとこだった」

 そう言いながらハガキをピラピラ振るのは目深に帽子を被って現れた庸介。

「会社宛てに送って来るとは……どういうつもりだ」

「誰かさんが無視出来ないようにしたんじゃないんですか?」

 思いっきり眉間に皺を寄せる和真、それにチラッと視線を送りため息交じりの明利。

「学校宛てに送って来なくて良かった。こんなピンクのハガキ見られたらどんな噂されるか分からん」

 見知らぬ顔に囲まれて落ち着きのない直紀。

「この紙……ぜってぇ呪われてる! 俺捨てたのにゴミ箱に破って捨てたはずなのに次の日にはまたテーブルの上に乗ってんだよ……。おまけに今日だって来るつもりなかったのに気が付いたら来てるし……」

 テーブルの上にハガキを叩き付けた陸は鼻息を荒くしながら息巻いた。

 だが全員が陸の言葉に覚えが合ったのが微妙に顔を引き攣らせて互いに視線を外してしまう。

「だいたい見当つくけどな……こんなくだらねぇことして人を呼び出す奴なんて一人しかいないし」

「そう思って間違いないだろうな」

 すでに諦めるしかないということを悟っている陸の言葉に和真が静かに同意をした。

 ただ他の三人は状況が掴めないらしく落ち着きがない。

「俺にはよく分からないんですけど……このハガキ何です? 詳しいこと書いてないし、一体ここで何を? まさか初対面同士で楽しくビールでも飲めとかってこと?」

「お子様はジュースしか飲めないぞ」

「誰がお子様だっ! ハタチだよ! ねーちゃんから聞いてねぇのかよ!」

「残念ながらかのこの口からお前の話題が出たことはなくてな」

「あんた、ホント腹立つよな! なんでねーちゃんはこんな奴選んだんだよ」

「お子様には分からない大人の男の魅力があるんじゃないのか?」

 こんなに険悪な雰囲気なのに隣同士に座らされた和真と明利が激しく火花を散らす。

「兄弟喧嘩なら帰ってからやれって」

 どうやら今回のメンバーには仕切ることの出来る人間は呼ばれていないらしいことに一早く気が付いたのが陸というのはさすがというべきか……。

「「兄弟じゃない!」」

 呆れ口調の陸に対して和真と明利は息の合ったところを見せた。

「あぁ……悪い悪い、義兄弟だったっけ?」

「違う! コイツは赤の他人だっ!」

「……出来の悪い義弟だが、ついてくるものは仕方がない」

「人をオマケみたいに言うんじゃねぇっ! 第一まだあんたとねーちゃんは結婚してねぇーだろっ!」

 訂正した陸に対して間髪入れず目を剥いたのは明利だった。

 だがコイツと指差された和真は口の端で笑みを浮かべ、明利の指を片手で軽く弾くとワザとらしくため息をつきながら首を横に振った。

 この場を収めようとした陸の言葉は火に油を注いだ結果となっただけだった……。


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