『拍手小説』
2

 再び収拾の付かなくなったこの場を収めたのは直紀だった。

「静かにしないか! 他の客への迷惑を考えろ!」

 体育教師らしい鋭い一喝にさすがの和真もバツの悪そうな顔をして居ずまいを正した。

 一人だけ我関せずという顔をしていた庸介は静かになったところでようやく輪の中に入ると全員の顔を見渡してから口を開いた。

「それで……話戻すと俺達はどうして呼ばれたわけ?」

 それを知っているのは誰もおらず互いに顔を見合わせて黙りこむ。

 陸は難しい顔をして腕組みをしていたがパッと顔を上げると宙を睨み付けた。

「おいっ! その辺で見てんだろ! 何とか言えよ!」

 突然の陸の奇怪な行動に四人は首を傾げるだけ。

 だが陸は周りの目も気にすることなく確信を得た瞳で何もないはずの宙を睨み付けた。

 時間にしたらほんの一瞬だったかもしれない、だが鬼気迫る陸の迫力に圧され息を呑んでいた四人には実際よりも長く感じられた。

 そこにいる五人の緊張が最高潮まで高まった瞬間だった。

 今まで吹いていた風と違う種類の風が巻き起こり、テーブルを囲み渦を巻くように吹いた風に四人は何事かと辺りを見渡した。

 だが不思議なことに周りの客はまるで何事もなかったようにこちらに関心を向けていない。

「おい、ババァ! もったいぶってないで何とか言えよ!」

 もう一度、陸が睨み付け乱暴に叫んだ。

 ――まったく、お前はこの場を仕切ることも出来ぬのか。情けないのぉ……。

「やっぱりいやがった……」

「お、おぃ……何だよ、この声……」

 憎々しく舌打ちした陸に対して明利はどこからともなく聞こえてくる声に不安そうに瞳を揺らし、意識せず体を和真の方に寄せると和真は意外にも少し微笑んだだけで何も言わなかった。

「今日は何の用だよ!」

 ――懇親会?

「わっけわかんねぇ! 初対面同士で懇親会って……何話せって言うんだよ」

 ――おぬしは自分の仕事も忘れたのか?

「あ? 仕事と何の関係があるんだよ。だいたいなぁ……何で毎回毎回、俺を呼び出すんだよっ!」

 ――どうせ暇ではないか。

「どうせとか言うな! お前とこんなことしてるぐらいなら仕事してた方がまだマシだ!」

 ――ほぉ……仕事の方がまだマシねぇ。今の言葉、そのまま伝えておいてやろう。

「い、いや……それはちょっと誠さんには内密に……。ってそうじゃなくて! さっきから見てたんだろう、収拾つかないんだよ。何とかしろって」

 姿の見えない声と会話をする陸を和真を除く三人は不思議そうに眺めていた。

(ドッキリか何かか?)

 庸介は陸に注視しつつもどこかに隠しカメラがないか視線だけを動かす。

(変なことに巻き込まれた……帰りたい)

 明利と直紀はそれぞれ同じことを胸の中で呟いていた。

 ――まったく……ハァ。接客業のくせにそのくらいのもてなしも出来ぬようでは私の下僕には到底なれまいぞ。

「誰が下僕だ、誰が! そんもんなりたかねーわ!」

 ――まぁいい。とりあえず初対面なら自己紹介から始めるのがよかろう。

 自己紹介という言葉に五人はふとそういえば名前も知らないことを思い出し「なるほど」と妙に納得がいってしまった。


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