『拍手小説』
七夕【庸ちゃん&珠子】
どうも最近マンネリ気味だ。
いや……マンネリというと語弊がある、マンネリするほどデートした覚えはない。
「なぁ、またココでいいのか?」
立体駐車場でどうにか空いている場所を見つけエスカレーターを下りながら俺とタマはいつものショッピングセンター。
「うんっ! だって楽しいよ?」
振り返った俺にタマはニッコリ笑ってみせる。
二段上に立つタマの視線が正面にあることに違和感を感じたがタマの笑顔に嘘がないことが分かりホッとした。
折角二人きりのデートならもっと違う所へ……と思ってもやはりあまり目立つような場所へは行けず、結局はいつもと同じ地元の大型ショッピングセンターだ。
でもゲームセンターや映画館、レストランや専門店が充実しているココは確かに一日いても飽きないかもしれない。
「何かみたいもん、あるか?」
「うんっ! 今日はねワンピース買うのーママにお小遣いもらってきた!」
服くらい俺ならいくらでも買ってやるし、東京に遊びに来たらもっと違う店に連れてってやるのに……。
そう思ってもタマはブランド物に興味はなく、安くて可愛い服を探すのが楽しいらしい。
もっとも……服よりも別のものに興味があるというのが事実だが……。
「あーーー庸ちゃん! 七夕だよー」
「おぉ……そういや、そんな時期だよなー」
二階から下を覗けばメイン入口の吹き抜け部分に色とりどりの短冊が飾られた笹が揺れている。
周りにはテーブルと椅子が用意されていてどうやら好きなように短冊を書いて飾れるようになっているみたいだ。
「ねぇねぇ、書こうよっ!」
背伸びして下を覗き込んでいたタマが俺のシャツを引っ張って走り出した。
どうせなら手を繋げばいいのに……と思いつつ、引かれるままにタマの後ろをついて行った。
「何て書いたー?」
「バーカ、こういうのは誰かに言ったら効果ないんだぞ」
「うそっ!?」
「うそ」
「もーっ!!」
ピンク色の短冊に願いことを書くタマの横で俺も青色の短冊にペンを走らす。
風に揺れてサラサラと音を立てる短冊には可愛らしい願いことがたくさん書かれていた。
子供じみたことだと思うけれど、こうやって書くことで本当に叶えられそうな気がしてくるから不思議だ。
「出来たーっ」
「俺も。じゃあ笹にくっつけるか」
出来上がったばかりの短冊を手に笹に括り付ける。
俺の体の前で下の方に括り付けるタマの遙か頭上に青色ともう一枚緑色の短冊を括り付けた。
「何て書いたの?」
下から見上げるタマが背伸びして俺の短冊を読もうとする。
「知りたければ読んでみたら?」
「むぅぅぅぅっ」
とてもタマの身長では届かない位置に括り付けた短冊を睨み付けタマは頬を膨らませる。
そういうタマは何て書いたんだ?
チラッと視線を落として丸っこいタマの文字を追う。
「もうっ! 庸ちゃんだけズルイッ!」
俺の視線を追いかけたタマは慌てて短冊を隠すように体で視線を遮ると俺の服を引っ張って歩き出した。
「何だよ。俺は読んでもいいって言っただろ?」
「あんなとこじゃ読めないもんっ!」
それが分かっててワザとあの位置に括り付けたんだって。
言えば機嫌が悪くなることは分かっているからそれは心の中に、ついでに書いた緑色の短冊の秘かな願いも心の中にしまっておこう。
タマが何て書いたのか分らないけれど、俺の願いもタマの願いも叶う日が来るといい。
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