『君の隣』
 第三章 P8


「だ、大丈夫か?」

 保健室の前に着いて扉を開けようと祐二が手を伸ばした。

 だが手が届くよりも先に扉がすごい勢いでガラッと開いた。

「篠田くんっ?」

 祐二に抱えられている貴俊を見た保健医が大きな声を出した。

「せんせー、コイツなんか気分が悪いとかって…」

 祐二が付添人らしく説明した。

「と、とにかく中に入りなさい」

 保健医は二人を中へ招き入れた。

「すみません。少し休めば良くなると思うので…」

「それじゃあベッドに横になって」

 保健医がテキパキとベッドを準備している。

 二人はまだ入ったすぐ入り口の所に立っていた。

 保健室なんて縁のない祐二は落ち着かない様子で周りを見渡している。

「朝から気分悪かったの?熱はありそう?」

 薄いカーテンの向こうから声だけが聞こえてくる。

「いえ、大丈夫です」

 貴俊の受け答えはしっかりしていた。

 祐二は少し顔色が良くなったように見える貴俊にホッとしていた。

「じゃあ、こっち…」

 保険医が戻って来て貴俊に手を貸そうとした。

「先生、職員会議の時間は大丈夫ですか?」

 貴俊は保健医の手を遮り壁に掛かった時計に目をやった。

「えっ?」

「あ、いえ…先程急がれているような感じでしたので」

 貴俊の言葉に保健医が苦笑いを浮かべる。

 月曜の朝は職員全体の会議が朝開かれていてもう後数分で始まる時刻だった。

「僕なら大丈夫です。同じクラスの東雲君がいてくれるので…」

 動揺している保健医に畳み掛けるように言葉を掛けた。

 突然自分の名前が出て慌てて二人を見た。

 保健医の不安そうな視線が祐二に突き刺さる。

「大丈夫かしら…」

「大丈夫ですよ。東雲君はこう見えても面倒見がいいんです」

 不安そうな保健医を安心させる為に口を開いたのは貴俊だった。

 貴俊がチラッと祐二を見た。

(な、何だよ…。頷けばいいのか?)

 貴俊の真意も分からず祐二は任せて下さいとばかりに力強く頷いた。

「そぉ?じゃあ…何かあったらすぐに呼びに来てね?」

 早口で言うと保健医は扉を閉めて足早に出て行った。

 保健室には二人だけが残された。

「とりあえず寝た方がいーよな」

 祐二は貴俊を支えたまま歩き始めた。

「貴俊?」

「ん?あ…」

 立ち止まったまま動かない貴俊を振り返った。

 後ろを向いていた貴俊が祐二の方を向くと何事もなかったように貴俊は歩き始めた。

(何だ?)

 不思議に思った祐二が歩きながら後ろを確認したが特に何もなかった。

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