『君の隣』
 第三章 P2


 祐二は下半身の違和感に気付いた。

 どこかから伸びた手が祐二の尻を撫で回している。

(ま、またかよ…俺は男だぞっ!)

 キッと唇をきつく結ぶと顔を上げて背筋を伸ばした。

 するとその手は驚いたのかすぐに引っ込み這うような手の感触は消えていた。

「ふぅ…」

 祐二は安堵の溜息を吐いた。

(痴漢されてるなんて貴俊に知られたらまた何されるか分かったもんじゃない)

 祐二の脳裏にはいつかのトイレでの情事が蘇った。

 痴漢から助けてくれた貴俊にあろう事かトイレの中でイカされた。

 恋人という関係になる前から貴俊の指には抗うことが出来なかった。

(何だってあんなに上手いんだよ…)

 記憶はいつしか昨日の貴俊の姿に変わっていた。

 日曜だった昨日はいつものように貴俊の部屋にいた。

 いや、正確には貴俊の部屋のベッドの上にいた。

 最初の予定ではレンタル開始された洋画を見てその後新作の格闘ゲームをするはずだった。

 しかし気が付けば祐二は貴俊の体の下で涙を浮かべながら何度も貴俊の昂りを受け入れていた。

(何度も何度も挿れやがって…)

 ダルさの残る腰に意識を向ける。

 初めての時にあれほど苦痛だった貴俊のモノも今ではいとも簡単に受け入れるまでになっていた。

 甘い囁きと巧みな愛撫で始めは嫌がっていてもいつの間にか貴俊にしがみ付きながらねだっている。
 
 貴俊が好きという事は自覚しているけれどエッチは別だった。

 エッチが嫌というわけじゃない。

 貴俊に挿れられるというのが祐二には抵抗…いや貴俊に対する劣等感からか負けたと思ってしまう。

 しかもどんなに頑張ってみても祐二の抵抗むなしく挿れられた上に簡単にイカされる。

(いつか貴俊の奴をヒィヒィ言わせてやる!)

 心の奥に秘めた野望だった。

 しかしいくら祐二でもそれが不可能なくらい分かっている。

 体格も頭脳も顔の良さもテクニックもアレの大きさすらも貴俊には勝てないのだ。

(でも俺にだって一つくらい勝てる事があるハズだ…)

 常に燻っている闘争心に火が点いて祐二は考えをめぐらせた。

 しかしどうしても集中出来ない。

 祐二は再び体の異変に気が付いて顔をしかめた。

 さっきは尻を撫でられていただけだが今はズボンの上から股間を撫でている。

(この野郎っ…誰だよ)

 満員の車内では自分の足元すらも見る事が出来ない。

 祐二は体を動かす事が出来ない車内で精一杯腰を引くと周りを確認した。

 右隣は女性でまずありえない前に立っているサラリーマンは両手で吊り革に掴まっている。

(左側は貴俊…っつーことは後ろの奴かぁ!)

 どんな奴か顔でも見てやろうと左に首を回すと熱い視線を感じて動きを止めた。


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