『君の隣』 第一章 P26
おーい、ちょっと待てぇ!
ヤキモチ?独占欲?
俺が乙女って何だよー!
それじゃまるでまるで…俺がアイツの事、す、好きみたいじゃねぇかよ。
あ、ありえねぇって…。
祐二は頭を抱え込むと髪をガシガシ掻き毟った。
だって俺男、アイツも男。
そりゃキスしたけど…男同士でそういう事する奴だっているのは分かってるけどさ。
混乱する頭で祐二はこっそりと窓から貴俊の部屋を覗き込んだ。
まだ帰ってないのかよ。
祐二は真っ暗な貴俊の部屋を見て舌打ちをした。
まさか…本当にアレが彼女でデートしてんのか?
心臓がドクドクドクと早く打ち始めた祐二に追い討ちを掛けるように貴俊の部屋に明かりが点くとそこにはシルエットが二つ現れた。
「えっ…?」
背の高い貴俊の横には小柄な…影。
お、女!?
祐二は慌てて携帯を掴むとボタンを押して耳に押し当てた。
「もしもし?お、お前何やってんだよっ!」
相手が出るなり電話口で怒鳴りつけた。
頭に血が昇って自分のやってる事の不自然さにまったく気が付いていなかった。
「何って今帰ってきた所だけど」
「今から俺ん家来いよ」
「用事があるなら今…」
「いーから来いっ!すぐに来いっ!」
祐二は散々喚き散らした挙句一方的に電話を切った。
フゥフゥと肩で息をしながら窓の向こうの貴俊の部屋を睨みつけていると二つの影が突然重なった。
はっ?
そして祐二が呆然としているうちに部屋の電気が消えた。
電気を消えてから何分経った?
あいつ何してんだよ。
俺は今すぐ来いって言ったんだぞ、それなのに何で来ないんだよ!
い、いや…もう来る。
俺の部屋に来ようとして電気を消したんだそうだ、そうに決まってる。
必死に思い込ませようとした。
けれどなかなか開かないドアに居ても経ってもいられずに部屋の中をウロウロと歩き始めた。
ほんの数分しか経っていないのに祐二には永遠にも感じられた。
「あーもう無理っ!」
これ以上は待てない!とばかりにドアに手を掛けると先にドアが開いた。
立っていたのはジャージに着替えた貴俊だった。
ポカンと口を開けた祐二に構う事なく貴俊は部屋に入って来た。
あ…来た。
当たり前のように部屋に入ってベッドに腰掛ける貴俊をぼんやりと見た。
な、何だよ。来るならもっと早く来いよ。
心の中で悪態を吐きながら祐二の今の顔は心底ホッとした表情を浮かべていた。
「それで…用事は何?」
貴俊の第一声は祐二の耳に冷たく突き刺さるようだった。
何も考えずに呼び出してしまった事に気付いて必死に頭を動かした。
「あ…あのさ、さっき誰かと部屋に居たのか?」
言ってからしまったと思った。
あまりにも直接的な聞き方すぎる…。
「…覗いてたの?」
貴俊は予想通り眉根を寄せて祐二を見た。
「あっ…ち、違っ…たまたま…」
しどろもどろで返事を返すのが精一杯だった。
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