『君の隣』 第一章 P19
次の日の朝も貴俊は祐二の家には来なかった。
出掛けに母親にケンカしたなら早く謝りなさいと言われた。
“こじれちゃったら仲直り出来ないわよ〜”
母親の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
別にケンカとかじゃない。
俺が謝ればいいってのも分かってるけど…。
だけど何かそれだけじゃない気がする。
こんな風にアイツが俺の事を避けた事なんか一度だってなかったんだ。
どんなにケンカしたって口聞かなくたって一緒に学校へ行くし帰りだって一緒で…いつの間にか仲直りしてたのに。
今回だけは何故か今まで通りに行かない。
原因は分かってる。
アイツがアイツが…俺を避けてるから。
いつもいるはずの左側がぽっかりとしてるせいか自分の心も何だかぽっかりと空いたような気がした。
「…ッテェ」
相変わらずの満員電車で思いっきり足を踏まれた。
祐二はドアに押し付けられるように立っていた。
昨日も思ったけどいつもこんなに混んでたっけ。
いつもと同じ時間同じ車両なのにいつもより電車が混んでるように感じている祐二。
でもそれは祐二の錯覚だった。
いつもは貴俊が祐二の盾になりながら乗っていた事を本人は全く気付いていなかったのだ。
ん…?
祐二は違和感を感じた。
自分の後ろで何かがモゾモゾと動いている。
「ひぃっ…」
誰かが祐二の尻を鷲掴みにした。
な、何だよ…!
ち、痴漢!?
俺男だって!
ちゃんと付いてるって!
驚いた祐二はその手から逃げようと腰を引いたが満員電車の中では無駄な抵抗だった。
その手の主は大胆にも手を前に回してズボンのジッパーを下げようとして来た。
「や、止めろよっ…」
祐二は小さな声で言いながら抵抗した。
混んでいて見えないが手探りで痴漢の手を掴んで引き剥がそうとした。
だが思っていたよりも痴漢の力は強く祐二の抵抗も空しく易々とジッパーを下げられてその手は中へと入り込もうとした。
「嘘っ…」
心の中で男だって分かればビビって手を引っ込めるだろうと思っていた。
それなのに痴漢は下着越しに俺のモノを探り当てると器用に刺激を与えてきた。
俺が男だって分かっててしてるのかよ…。
その時初めて恐怖が体を襲った。
「は、離せ…」
祐二の声は小さく震える声でその声は簡単に電車の音にかき消されてしまう。
「ひぁっ…」
痴漢は躊躇なく祐二の下着の中へと入り込み直接弄り始めた。
な、何でだよう…。
祐二のカラダは心とは反対に痴漢の手の中でしっかりと反応してしまっていた。
「ハァハァ…」
後ろで生暖かい息が自分の首に掛かるのを感じた。
い、嫌だっ!!
背筋がゾクリと震えた。
だがタイミングよく電車は祐二が降りる駅へと滑り込んだ。
祐二はドアが開くと痴漢かどうかも分からない後ろの人の足を踏みつけて電車から飛び降りた。
そして後ろを振り向かずに全速力で学校へ向った。
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