『君の隣』 季節『ある夏の一日'09』 P13 side祐二
目が合ってしまうとなかなか逸らせない。
「祐二」
「だから……何だよっ!」
恥ずかしさを誤魔化すために言葉が荒くなる、それでも貴俊の表情は変わらずただ俺を見つめている。
さっきまで何ともなかった俺の心が急に暴れ始める。
(鎮まれって! おいっ……頼むから!)
ドクドクと激しさを増す心臓の音、こんな側にいたら絶対に気付かれると、必死に抑えようとしたけれどちっとも言うことを聞く気配がない。
「祐二、頭……上げて?」
「あ、たま?」
「うん」
戸惑っていることに気付かれないように、口ごたえせず頭を持ち上げる。
ゴソゴソと音がして直ぐに「いいよ」と言われた俺は頭を下ろして貴俊のお願いの正体に気が付いた。
「おま……これ……」
「うん、腕枕。だって祐二いつも嫌がってさせてくれないでしょ?」
「あ、当たり前だろ! こんな硬い腕で眠れるか」
「でも……お願い、聞いてくれるんだよね?」
「うぅ……」
「おやすみ、祐二」
「お、おやすみ……」
もっとエロいことを要求されるんだと思っていただけにさすがにこれは拍子抜け、でもエロいことをされるよりもずっと恥ずかしいことをされているような気分。
腕枕をしていない方の手は俺の身体の上、貴俊の方を向いている俺は抱きしめられているみたいな格好。
寝れるわけないしすぐに寝返りを打って抜け出そうって思ってたのに、思っていたよりもこの場所が心地良くて硬い腕も気にならない。
(これじゃあ、ホントに女みたい……じゃん)
そう思うと少し悲しくなって、昼間に感じたことも思い出してしまい、自分でも止められずずっと考えていたことを口にした。
「お前さ……俺が女だったらいいのにって思ったことある?」
「祐二……女の子になりたいの?」
「なわけねぇだろ! 俺は男だっ!」
「そうだよね。ビックリした……そりゃ祐二がどうしてもなりたいって言うなら止めはしないけどね」
「やっぱり……女だったらいいのにって思うか?」
俺は男だし女になろうなんて思ったことはないけれど、もし俺が女だったら貴俊と二人で外を歩く時も人目を気にしなくていいんじゃないかと思うことがある。
海だって男と女だったら二人でいてもおかしくないし、きっと貴俊みたいな男が彼氏なら自慢だって出来るはずで……。
貴俊も男の身体に触るより女の身体に触る方が気持ちいいだろうし……。
「俺は祐二がいいんだよ」
「そうじゃなくて……」
「男でも女でも……俺は祐二がいいんだ。明るくて負けず嫌いでいつも俺に怒鳴ってばっかの祐二が好きなんだよ」
よく分からない、良く分からないのに……どうしてだろう今はすごくホッとしてる。
「俺……お前に何もしてやれねぇのに? 頭だって悪いし、運動だって普通だし、お前に文句ばっか言って、今日だって迷惑、かけただけだし……」
言葉にするとどんだけ自分がダメなのか思い知って情けなくなる。
ずっと不思議だった、どうして貴俊は俺のことがそんなに好きなのか、他にいっぱい可愛いやつとか男でも見た目のいいやつなんてそこら中にいるのに、どうして俺を選んだんだろう。
「祐二じゃないとダメなんだ。……こんな言い方したら重いかもしれないけど、祐二の側にいられるだけで……すごく幸せなんだ」
いつもだったらふざけたこと言うなって殴り返していたと思う。
でも今日は色んなことがあって、心の中もぐちゃぐちゃしてて、それに眠たいからかな、貴俊の気持ちを重いなんて感じなくてただ嬉しいと思った。
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