『君の隣』 季節『ある夏の一日'09』 P12 side祐二
海にいたのはほんの少しなのに日焼けした肌が赤くなって少しヒリヒリする。
最初の予定通り夕方に迎えに来た雅兄に散々怒られて、よく分からないけれど落ち込んでいた太一を帰る道中ずっと慰めていた。
貴俊は……なんかすげぇ機嫌が良くてちょっとホッとした。
帰って来てから夏恒例になった貴俊ん家のバーベキューも終わって、シャワーを浴びて今はクーラーの効いた貴俊の部屋。
アイツは今シャワーを浴びて、俺はのんびりゲームをやっていたんだけど……。
とんでもないことを思い出してしまった。
――この試合、勝ったらご褒美くれる?
始まる前に貴俊はそう言った。
まさかあんな点差をひっくり返すなんて思ってなかったから俺も簡単にオッケーしてしまった、今さら後悔しても遅いけれど願わくば……貴俊がそのことを忘れていてくれますように。
心の中で願っていると貴俊が戻って来た。
「祐二、傷……痛くない?」
「お、おぉ……これくらい平気だって」
「そっか、良かった」
よほど俺の怪我のことが気になるらしく、帰って来てからだけでももう何回同じセリフを聞いたか分からない。
(とりあえず今日は余計なことは言わずに寝てしまおう……)
すぐにゲームを切ってベッドの脇に敷かれた布団に潜りこみながら気が付いた。
どうして今日もコイツの部屋に泊まってんだ、俺……夏休みに入ってから一緒の部屋で寝てない日を数えた方が早いことに愕然とする。
夏休みだから浮かれてたけれど、これじゃあまるでラブラブの恋人同士みた……。
(ラ、ラブラブ!? 何、言ってんだ俺!!)
自分で「ありえない、ありえない」と慌てて突っ込みを入れるけれど、きっと明日もどちらかの部屋で一緒に寝ているんだろうなぁとボンヤリ思ってしまう。
「祐二」
「んー?」
部屋の電気が消えてから貴俊の呼ぶ声、疲れたせいかウトウトしていた俺は生返事。
「何か忘れてない?」
「な、な、ななんのことだよ?」
(これじゃあ、覚えてますって言ってるようなもんだぁ)
うまく誤魔化すことも出来ず、裏返った声が決定的な証拠。
「俺のお願い、聞いてくれる?」
茶化すわけでもなく、傲慢に命令するわけでもなく、いつも通りの優しくて穏やかな貴俊の声。
姿は見えないけれどその声を聞いていると、昼間の必死になった貴俊の顔や落ち込んだ貴俊の顔がちらついてしまう。
そのせいか邪険に撥ねつけることが出来ない、黙り込んでしまった俺に向かって貴俊はさっきよりも優しい声で俺を呼んだ。
「祐二、来て? ベッド……一緒に」
「そ、それがお、お願いってやつかよ……」
「違うよ。お願いを叶えて貰うための準備」
(やっぱり……エロいことする気だ……)
出来るなら逃げ出したい、でも約束を破るような真似もしたくない。
貴俊が言い出さなきゃなかったことにするつもりだったけれど、ここまで来たら覚悟を決めて受け入れるしかないと自分に言い聞かせた。
それでもどんな恥ずかしいことをされるのか、ビクビクしながら貴俊のベッドに潜り込んだ。
「なんでそっち向いてるの?」
「べ、別にいいだろ……」
貴俊に背中を向けているのは、恥ずかしい顔を見られたくないからだ。
エロいことする時は決まって俺の顔を見たがるしキスだって何度もしたがる、あの最中の顔なんて見られたくないのにいつも「可愛い、可愛い」って女に言うみたいなセリフを口にする。
これはそれを避けるための俺が考えた防御策だ。
「うん……どっち向いててもいいけどね……」
後ろにいる貴俊の息が耳に掛かる。
(しまった! こっちも失敗だっ)
姿が見えない分、違う感覚がいつもより敏感になってしまう。
「や、やっぱり……そっち向いて……」
ゴソゴソと体の向きを変えると今度は直ぐ目の前に貴俊の顔がある。
暗闇に慣れた瞳じゃなくても表情が分かるほど近付いた二人の顔、小さな吐息すらもすぐに相手に伝わってしまう距離に俺の心臓が飛び跳ねた。
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