『君の隣』
 第四章 P10


 涙で濡れた瞳でジッと見つめられた貴俊は微笑を返すと目を閉じて顔を近づけた。

 ソッと触れるだけのキスを繰り返した貴俊はおもむろに舌を差し込むと迎えてくれた祐二の舌と絡め離れた。

「じゃあ、また明日ね」

 コツンと額を合わせてもう一度唇を重ねてから貴俊はベッドを下りた。

(なんで……)

 急に突き放されたような冷たさに祐二は不安になった。

 明日は休みだからてっきり泊まっていくんだろうと思っていた祐二は肩すかしを食らったような顔をして貴俊を見た。

「あ、明日……」

 ドアに向かって歩き出した貴俊を引き止めようと声を掛けた祐二だが何も考えずに口から出てしまった言葉に後が続かない。

 振り返った貴俊も首を傾げている。

「明日……ピザがいい」

「うん、分かったよ」

(何、言ってんだ……俺)

 ニッコリ微笑んで頷く貴俊に言いたい事はそんな事じゃないと自分を叱責する。

 「泊まってけ」の一言を言えれば済む話なのに唇を動かすばかりでそれは声にはならない。

 それでも伝えようとする祐二を見ていた貴俊は表情を和らげてベッドまで戻って来るとしゃがみ込んで視線を合わせた。

「な、なんだよ……」

「本当は祐二の口から聞きたいけど俺から言ってもいい?」

「何が、だよ」

 顔を覗きこまれた祐二は貴俊が何を言おうとしているのか気付いて口を尖らせた。

 どんな時でも貴俊は察してくれてる。

 それがくすぐったい時もあれば何でも分かったような顔をしてと腹が立つ時もある、けれど今だけはそんな察しのいい貴俊に救われた気分だった。

「明日休みだから泊まっていい?」

「お、おぅ」

「じゃあ、おばさんに布団貰ってくるね」

 貴俊が部屋を出て行くと祐二はパタンとベッドに突っ伏した。

(カッコ悪ぃ……)

 振り回してやろうと思うのにいつも振り回されっぱなしで貴俊はいつも余裕があるのに自分には全然ない。

 たまには主導権を握ってやりたいと思うのにいつも貴俊のペースに持っていかれてしまうのが納得がいかない。

「祐二、開けて」

 ドアの向こうから貴俊の声が聞こえて来ると祐二は慌ててベッドから飛び下りるとドアを開けた。

 部屋の中央に布団を敷いている貴俊を見て祐二はこれから起きる事を想像して不自然に頬を染めた。

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