『君の隣』 第四章 P7
「お前……俺に言う事ないのかよ」
祐二は気を抜くと昂ってしまいそうな感情を抑えながら声を絞り出した。
あんな場面をなかった事なんかに出来ない、それならいっその事自分からすべてを明かして貴俊を問い詰めてしまった方が楽になるんじゃないか。
胸の中で渦巻く負の感情に飲み込まれてしまう前に自分で確認してやろうと決心した。
祐二は振り返って貴俊を睨みつけた。
「何かあったかな?」
「とぼけてんじゃねえよ! 俺見たんだからなっ!」
「何を?」
「お、お前が……弓道場で女子と抱き合ってるとこ……」
いざ自分で口にするとなるとやはり気が引けた。
こんな風にまるで浮気を突き止めようとするような事は自分らしくない、前はもっと自分は強かったはずで貴俊が何をしていようと鼻で笑ってやる余裕があった。
それが今はこんなに弱い。
少しでも貴俊の興味が自分から逸れてしまう事がこんなにも怖い。
祐二は言い終わると俯いた。
(言い訳出来るならしてみろよ……)
むしろ事故だったとか実は女装した男だったとか何でもいいから言い訳をして欲しかった。
それでいつものように頭を撫でて抱きしめて欲しいと心の中で願う。
「うん、知ってるよ」
ギシッと音が聞こえて祐二が顔を上げると貴俊が立ち上がりながら答えた。
「な……っ」
(知ってた?)
「祐二、窓から覗いてただろ?」
貴俊が近付きながら続けた言葉に祐二はあ然とした。
今の言葉から貴俊は見られているのを知っていたのに女子と抱き合っていたという事になる。
祐二は訳が分からなくなり後ずさりながら貴俊を見た。
「ど、どういう事だよ! 俺が嫌いになったらハッキリそう言えばいいだろっ!」
「祐二」
「触んなよっ! 何だよ! 俺の居ないとこで笑ってたのかよ!」
手を伸ばす貴俊を突き飛ばすと祐二はベッドに駆け上がりとタオルケットを被って丸くなった。
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