『君の隣』
 第四章 P6


「何しに来たんだよ!」

 部屋の中に入って来た貴俊の顔を見る事が出来ない祐二はパッと背中を向けた。

 ゆっくり近付いて来るのが分かると祐二の背中に緊張が走り胸の鼓動はどんどん早くなる。

 ギシッという音と同時にマットが沈むのを感じた祐二は慌ててベッドから飛び降りた。

「お、俺……DVD返しに行って来るっ」

 床に置いてあったレンタル屋の袋を取ろうとした祐二だが貴俊の腕に引っ張られて遮られた。

(なっ……)

 強い力で引かれた手にドキッとする。

 それと同時にその手が女子生徒を触っていた事を思い出した祐二は思いっきりその手を振り払った。

「触んなっ!!」

「ごめん、痛かった? DVD返すのは明日にしよう、今日はもう遅いからね」

 乱暴に手を振り払われた貴俊だがあまり気にも留めず持っていた枕の形を整えながらベッドに戻している。

 肩越しに振り返った祐二は唇を噛んだ。

(だから何で……)

 Tシャツにハーフパンツ姿の貴俊はベッドに腰掛けたまま床に落ちているサッカー雑誌を拾ってペラペラめくっている。

 祐二は胸の奥が痛くなった。

「そうだ祐二、明日母さん出掛けるんだ。午前中にDVD返しに行って昼はピザ取って食べようよ」

(貴俊……もしかしたら……)

 あんな事があったのに普通にしていられるのはもう自分の事が好きじゃないからかもしれない、祐二の頭の中は一番考えたくなかった事で占められて不安が胸いっぱいに膨れ上がった。

 自分は振られてしまうかもしれないと思うと途端に胃が逆流するような感じがした。

「……そんなの嫌だ」

「ピザは嫌だった? でも俺、パスタくらいしか出来ないけどいい?」

 絞り出すような声で呟いた祐二はガックリと肩を落とした。

 こんなに辛いと思っているのに貴俊は心配してくれるどころか気付いてもくれない。

 検討違いな事ばかり言う貴俊の考えている事が全然分からない。

 祐二の心は不安と落胆でどうにかなりそうで拳をギュッと握り締めた。


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