『君の隣』 第四章 P1
「おっせぇなぁ……」
部活が終わってから部室の前で貴俊が来るのを待っていた。
けれどいつもの時間になっても貴俊が姿を現さない事に祐二はイライラしながら紙パックのストローを噛み潰していた。
(たまには迎えに行ってやるか……)
腰掛けていた水飲み場からピョンと飛び下りると校庭の端にある弓道場へと向かった。
白のポロシャツに薄いグレーのズボンの夏服姿にエナメルのスポーツバッグを斜め掛けにした祐二はタラタラとグランドを横切る。
あっという間に夏休みを終えて九月。
西に傾いた太陽はまだ残暑厳しくジリジリと肌を照らしている。
夏休みは部活と遊びに明け暮れ真っ黒に日焼けしていた祐二はほんの数日前に夏休みの課題をすべて終えた所だった。
課題の提出が済まないと部活に参加出来ないという決まりがあり祐二は今日が久しぶりの部活で心地良い疲労感を感じていた。
「腹減ったぁ。パンは食っちまったしなぁ」
貴俊を待っている間に昼休みに購買で買ったアンパンを食べたがそれでも空腹は治まらずグウグウ空腹を訴える腹をさする。
(遅くなった罰になんか奢らせてやるか)
夏休みは付き合い始めたばかりの祐二と貴俊にとっては今までにない充実した時間を過ごす事が出来た。
多少の事件はあったものの二人の仲がグッと深まったのは言うまでもない。
「アイツは頑張りすぎなんだよ……」
二学期は生徒会にとって一番多忙な時期。
それなのに弓道部の部長をしている貴俊は少しでも練習をしたいと忙しい合間を縫って部活に顔を出している。
自分の練習と言いながら結局は後輩の指導に追われて自分の練習の時間が取れない貴俊にいつも祐二は呆れていた。
(どうせ後輩にせがまれてズルズルやってんだろ……)
弓道場の外に着いた祐二は窓から覗き込んだ。
長身に黒髪の弓道衣の後ろ姿が見えた。
「お……ッ」
一人残って練習をしているのかと思った祐二は声を掛けようとして慌てて口を噤んだ。
(は……?)
祐二は目の前で起きている事に自分の目を疑った。
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