『君の隣』
 季節『ある夏の一日'08』 P8


 気分が高揚していた行きとは逆に静まり返ったバス車中。

 朝あんなに協力しろと息巻いていた太一はがっくりとうな垂れて眠っている。

 事情はよく分からないがえらく怖いお兄さんが迎えに来たらしい。

 他の男子も誰一人上手くいかなかったらしい。

 女子達もお目当てだった貴俊に相手してもらえずがっくりといった感じだった。

 結局満足そうな顔をしているのはめーいっぱい楽しんだ日和と意外にも貴俊だった。

「貴〜?顔〜顔〜」

 携帯でゲームをしていた日和が手を止めて貴俊を見た。

 通路を挟んだ席に貴俊が座りその横に祐二が座っている。

「どんな顔してた?」

 貴俊は日和の方を向いた。

「もう〜締まらなすぎ〜でれでれのか〜お〜」

 呆れた口調の日和。

「ま〜仕方が無いっかぁ〜?」

 それもそのはず祐二が貴俊の足を枕にして横になっている。

 膝の上に頭を乗せた祐二の髪を撫でながら貴俊は目を細めていた。

「日和が誘ってくれてよかったよ」

「プールなんかどうでも良かったくせに〜?」

「祐二が行きたそうだったからね」

 抜けていそうで意外と頭の切れる日和。

 クスクス笑いながら携帯をパチンと閉じると座席にもたれて目を閉じた。

「日和…ほんとありがとうな」

「どーしたの改まってー?」

 いつにもまして神妙な声の貴俊に目を開けた。

 優しく微笑んでいる貴俊が表情を少し引き締めて日和を見た。

「俺達のこと受け入れてくれて…」

「なに言ってんのー?俺達友達じゃーん、あんまり変な事言うと怒るよ〜?」

 いつもの間延びした話し方に貴俊は頬が緩んだ。

「分かったよ。今度花火でもやろうな」

「ほいほーい!んじゃちょっと寝るよぉ〜」

 そう言って日和はまた目を閉じた。

 貴俊は視線を膝の上の祐二に戻した。

 疲れたのかぐっすりと眠っている。

 貴俊は幸せな気持ちに包まれながら夕焼けで赤く染まる雲を眺めた。

 
end

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