『君の隣』
 季節『ある夏の一日'08』 P5


 プールに着くと皆は勢いよく飛び出した。

 男子達は何とか女子の気を惹こうと躍起になっていたが祐二達三人は純粋にプールやスライダーを楽しみにしていた。

 日和は風貌を見事に裏切るほど思い切りのいい男前だった。

 祐二と貴俊の先頭に立って次から次へとスライダーを制覇していく。

 特に気に入ったのはフリーフォールとウォーターチューブで腰が引き気味の祐二を強引に誘っていた。

「お、俺っ…カキ氷食いてぇっ…」

 祐二は日和から逃げる口実を何とか作ろうとする。

 日和は掴まえていた手をパッと離して貴俊を見た。

「俺は…」

「分かってるぅ〜!俺と〜スライダー一緒に行ってくれる子募集中〜!」

 貴俊の答えを最後まで聞かずに日和はクルッと後ろを向いて女子達に声を掛けた。

 貴俊ほどではないが人気のある日和の誘いに女子達は色めきたった。

「貴俊っ!カキ氷買いに行こうぜっ!」

 どうやら口実だけじゃなくて本当に食べたかったらしい祐二は他の皆に声を掛けて輪から離れた。

 当然のように貴俊もついて行った。

「祐二、そんなに食べたらお腹壊すよ?」

 貴俊はカキ氷を両手に持って前を歩く祐二に声を掛けた。

「大丈夫だって!それに日和も食いたいって言うかもしんねぇだろっ!」

 ご機嫌の祐二はスキップをしている。

 貴俊は片手にジュースを持ってハラハラしながら見ていた。

「日和達はどっこかなぁ〜?」

 祐二はキョロキョロと日和を探しながら歩く。

 混雑しているプールサイドで何度も人にぶつかりそうになった。

「祐二っ!危ないっ!」

 慌てた貴俊の声に祐二は振り返った。

 だが次の瞬間には何かにぶつかり持っていたカキ氷が手を離れた。

「冷たっ…」

 女性の声に祐二は慌てて振り返る。

 自分の横に倒れている女性の体がカキ氷まみれになっている。

 祐二は自分の手とその女性を何度も見比べた。

「あわぁぁぁ…ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

 ぶつかった相手がその女性で自分の持っていたカキ氷を掛けてしまった事に気付いた祐二は何度も頭を下げた。

「大丈夫…だけどカキ氷ごめんね?」

 ぶつかった女性は申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。

「い、いえっ…俺がぶつかっちゃって!ほんとごめんなさいっ!」

「だから危ないって言っただろ?本当に申し訳ありませんでした。お怪我はないですか?」

 祐二を窘めながら貴俊が隣に並んだ。

「もっと早く言えよー貴俊ー」

 自分の不注意でぶつかったのは分かっていたがつい悪態を吐いた。

「祐二?」

 さすがに貴俊も怒った顔で祐二を睨んだ。

 祐二はシュンと落ち込んでもう一度倒れている女性を見た。

 とても可愛い人で黒と白のギンガムチェックの水着は赤や緑のシロップまみれになっている。

(うわぁ…どうしよう…や、やばいよなぁ…)

「ほんとに怪我はないから大丈夫よ?」

 祐二の視線に気付いた女性はにっこり笑ってくれたがそれが逆に祐二の心を痛めた。

「でもカキ氷かけちゃって…えっと…どうしよう…と、とりあえず…それ何とかしないと…」

 祐二は体の上のカキ氷をどけようと手を伸ばした。

「祐二っ!待って!」

 慌てる貴俊の声に手を引っ込める間もなく祐二の手は乱暴に払われた。


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