『君の隣』 季節『ある夏の一日'08』 P4
珠子みたいな女の子がタイプなのは確かだがだからといってどうこうしようという気が起きるわけがない。
「ふぅーん…入学組だよね?」
「そーだな…見た事ねぇもんな」
祐二と日和はウンウンと顔を見合わせる。
中等部からの彼らはほとんど高等部からの入学組の女子とはクラスも違いまったくと言っていいほど面識がなかった。
「菅生も邪魔すんなよ?」
太一が菅生の肩をポンと叩いた。
「大丈夫〜!俺も祐も〜協力してあげられるよね〜?」
「ありがとな!菅生お前いいやつなんだな!他の子だったらいくら狙ってもいいからな!って他の奴らも今日決めようとしてるみたいだけどな!」
今日は太一と同じクラスの男子も二、三人一緒だ。
太一の言うとおりギラギラと目を輝かせている。
「だって〜祐〜ぅ?頑張っちゃう〜?」
事情を知っていて日和はわざと祐二の脇腹を突っついた。
「なんだよー祐二気になる子でもいるのか?」
太一にニヤニヤしながら肩に手を回されて気になる子の顔をコソッと覗き見た。
気になる子というより朝から濃厚なキスを交わした恋人。
その恋人はまだ女子に囲まれたままで祐二の顔はまた不機嫌になった。
といえどもこの関係をオープンにするほどの勇気を持ち合わせているはずもない。
「篠田くぅ〜ん?」
祐二が不機嫌な視線を送っていると視線の合った貴俊は女子達の輪から抜け出して真っ直ぐこっちへ向かって来た。
「祐二喉乾いたでしょ。ジュース買いに行こう」
貴俊はベリッと太一の腕を引き剥がすと祐二の腕を引いて歩き出した。
「な、なんだぁ!?」
普段はにこやかな生徒会長の別の顔を見た太一はポカンとした。
事情を分かっている日和はクスクス笑って引きずられるように連れて行かれる祐二を見送った。
「痛いって!離せよー!貴俊ぃっ!」
貴俊は人の少ない階段の辺りまで祐二を連れてくるとようやく手を離した。
強く握られた手首を擦る祐二は貴俊を睨みつけた。
「一体何なんだよっ!」
「どうして他の男に簡単に触らせるの?」
「な、何だよ…お前だって女の子に囲まれて嬉しそうにしてたくせに…」
自分の事は棚に上げて説教されてたまるかと祐二はむくれた。
貴俊は祐二の手を引いてさらに人目を避ける場所へと行く。
「俺は祐二にしか興味ないよ」
告白めいたセリフに祐二はドキッとする。
しかも壁際に追い込まれて体が密着しそうなほど近づいて落ち着かない。
「祐二は?」
「お、俺……だって…」
「じゃあキスして?」
「な、何言ってんだよ…もうバス出るだろっ…」
「祐二?キスしてくれないならこのまま手を繋いでみんなの所に戻ろうか?」
貴俊は指を絡めるように祐二の手を取った。
怒っている貴俊は時々信じられないような行動を起こす。
祐二には選択肢も迷う時間もなかった。
背伸びをしないと届かない貴俊の唇に自分の唇を重ねた。
重なった瞬間貴俊の腕は祐二の腰を支え二人は深く唇を重ね合わせた。
「キャハハッ!」
すぐ近くで笑い声が聞こえて祐二は慌てて体を離した。
「キ、キスしてやったんだから…お前だって女にデレデレすんなっ…」
照れ隠しなのか乱暴に言い捨てると祐二はすぐに駆け出した。
どんなに可愛い女の子よりもそんな祐二が可愛くて仕方が無い貴俊はほんのりと頬を染めて祐二を追いかけた。
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