『日日是好日』第七話『ボクにとってのガクさん』 P2
ガクさんはボクと暮らすようになってから、料理の腕が上がったといつも笑う。
それはガクさんのお母さんも同じことを言うので本当にそうらしい。
ガクさんの作る料理は何でも美味しくて、食べられれば何でも良かったボクでさえ、最近はちょっとグルメになってきたんじゃないかと思う。
それに……料理をしているガクさんはカッコいい。
料理をしているガクさんを見ているのは楽しいけれど、あまり時間が長くなってくると寂しくなって来る時もあった。
「ガクさん、ご飯の支度終わったの?」
取り込んだ洗濯物を二人で畳みながら聞くと、ガクさんは「これが終わったら栗を剥いて、それから炊飯のスイッチ入れるだけだ」とまだまだだなと笑った。
「炊ける頃にサンマを焼いたら飯だけど、まだ少し掛かるぞ? 腹……は減ってないよな」
「うん」
ガクさんがまた笑う。
ボクがガクさん家でケーキを3つも食べたことを、また思い出しているんだとすぐに分かった。
今日のご飯は栗ご飯とサンマの塩焼き。
本当は魚は好きじゃないけど、焼いたサンマなら結構好きだから嬉しい。
「じゃあ、残りは頼んでいいか? そろそろ栗の皮を剥いてくるからな」
ガクさんは立ち上がるとボクの頭をポンポンと叩いて台所へ行ってしまった。
残った洗濯物を何とか畳み終えて、それらを決められた場所にしまって戻って来ても、ガクさんはまだ台所にいた。
真剣な顔をしている。
少しだけ眉間に皺が寄っているから、もしかしたら苦戦しているのかもしれない。
こんな時、本当はボクが手伝いに行けばいいんだけど、ボクが行ったら逆に足手まといになるだけだから、ボクはこうして見ているだけだ。
テレビの点いていない部屋はとても静かで、ガクさんが栗を剥く音しか聞こえない。
ちゃぷんと水音がして、時々「あっ」とか声がする。
待っている間、仕事をしていようかと思ったけれど、こんな幸せな時間は大切にしたい。
ボクはソファに座り、ガクさんとボク以外に何もない時間を満喫することにした。
しばらくはガクさんを見ていたはずなのに、どうやら眠ってしまったらしい、と気が付いたのは身体に暖かいものが掛けられたからだった。
目を開けるとガクさんが隣に座って新聞を読んでいる。
「あれ……」
「起こしたか?」
「ううん、違う、けど……」
どのくらい寝てたのかと、キョロキョロしていると、ガクさんは新聞をテーブルの上に置いて、身体を起こすボクを手伝ってくれた。
「少し前。俺が栗を剥き終わる頃だな」
「じゃあ、もう終わった?」
「ああ、あとは飯が炊けるのを待つだけだ」
良かった。
ご飯が炊けるまでの時間、ボクはガクさんを独占出来ると思うと、嬉しくて堪らなくなる。
三連休だぞって昨夜そう言ってくれた。
この三日間は朝も昼も夜も、いつだってガクさんがいてくれるし、朝も寝坊したって構わないから、今夜は二人でDVDを見ながら夜更かしをするって決めてある。
それもすごく楽しみだけど、ボクにはもう一つしたいこともあるんだ。
「ガクさん。ご飯の前に、食べてもいい?」
甘いケーキよりも、ずっとずっと大好きなガクさんを、ボクにちょうだい。
end
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