『日日是好日』第四話『カオルの異変、ガクさんの懸念』 P4
後ろ髪を引かれているような気がして後ろを振り返ると、目が覚めたらしいカオルが手を伸ばして俺の髪を摘まんでいた。
「目、覚めたか?」
ベッドにもたれながら読んでいたさっききたばかりの朝刊を床に置き立ち上がる。
カオルが心配で寝付けなかったが明日が休みで良かった。
「ガク、さん……」
「どうした? しんどいか?」
掠れた声で名前を呼ばれて、汗で額に張り付いた髪を後ろに梳いてやった。
カオルは首を横に振ったがそれでも何か言いたそうに俺の顔をジッと覗きこんでくる。
子供みたいにあどけない表情が可愛い、思わず額にキスをしたが唇に伝わる肌の熱さに胸が痛んだ。
「カオル、デコに貼ってたやつどうした?」
「あれ、嫌い……冷たい」
「ダメだ。熱下がらないだろ?」
「もう……下がった」
まだ赤い顔をしながらそんなことを言われてもちっとも信じられない、でももう一度「下がった」と頬を膨らますカオルに負けて体温計を脇に挟んでやる。
昨夜から何も食べていないと言うカオルにレトルトのコーンスープを無理矢理飲ませ薬を飲ませて寝かせつけたのが二時間前。
キッチンで倒れていた(寝ていた)カオルを見つけた時は心臓が止まるかと思った。
カラダがフワフワして床が冷たいくて気持ちいいから、転々と冷たい床を求めて寝床を変えていた話を聞かされて本当に言葉が出なかった。
これから出張の時は不本意でも雪さんに預けていこうと思う。
でもさっきよりは少し顔色が良い。
ピピピ……と小さな電子音が聞こえて脇から体温計を抜く、カオルの顔がまるで試験結果でも聞くようにドキドキしてるのが分かって俺はワザと難しい顔をして見せた。
カオルの細めの眉が悲しげに下がる。
「37.6度、まぁ……さっきよりは下がったな」
言いながらニカッと笑ってやるとホッとしたように表情をゆるゆると解いた。
最初計った時は38.7度もあって病院に連れて行った方がいいかとも思ったがこれなら少しは安心だ。
「汗掻いただろ? 着替えるついでに身体拭こうな」
黙って頷いたカオルの撫で部屋を出て行く。
着替えとタオルを用意して戻ってくるとカオルは体を起こして座って待っていた。
細い身体が今日はいつもよりも細く見える、それがダブダブの長袖のTシャツのせいだと分かっていてもやはり痩せているカオルが心配だ。
それに……カオルに何かあったらあの人になんて言われるか……想像しただけでもゾッとする。
「気持ちいいか?」
服を脱がせて熱いタオルで拭いているとカオルが嬉しそうに体をすり寄せた。
「ガク、さん」
「こら……拭けないだろ? ちゃんと大人しくしてろ」
「ガクさん」
甘い声で名前を呼ばれるとつい背中を拭いていた手が止まってしまった。
カオルは俺の肩に頭を預けるようにもたれかかって来ると首を横に向けチュッチュッと啄ばむようなキスをしながら顎のラインを辿る。
「カオル」
咎めるように平坦な声で言う、それでもカオルはキスを止めず上目遣いに俺を覗き込んだ。
「寂しかった」
いつもは口数も少ないのにこういう時だけは饒舌だ。
熱のせいで潤む瞳はどうも熱のせいだけじゃない、拗ねた声で甘えながらまるで猫のように口元をペロペロ舐める。
「熱あるだろ?」
「もう、下がった」
カオルは身体の向きを変えるといよいよ俺の体に抱き着き、まだ熱い手が服の下に潜り込み肌の上を滑る。
なけなしの理性を総動員してもカオルの誘いに勝てたことは今まで一度としてない。
だが今はカオルは熱を出している、そんな時にいくら誘われたからといって押し倒すわけにいくか……。
「……ッ」
カオルの細い指が胸を掠め思わず声が漏れる。
「ヤ? 風邪、うつるから、イヤ?」
舌足らずにそんな風にねだられ、気が付いたらカオルの体を抱いてベッドに横たわっていた。
「また熱上がっても知らないぞ」
「いい。ガクさん、いるから。もう、平気」
それじゃまるで俺が居ないから熱を出したみたいに聞こえるぞ。
寂しくて熱を出したなんて都合良く受け取って、潤みきったカオルの瞳を見つめながらキスをする。
いつもより熱いカオルの唇を労わり、さらに熱い舌を絡め取る。
このまま熱も奪い取ってしまえたらいい、最後の理性でそんなことを考えながら熱いカオルの身体に溺れていった。
end
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