【6】

 ホストをしている彼との付き合いは簡単ではなかった。

 女性を相手にしている仕事だし、不安はたくさんあってケンカは数え切れないくらいした。

 何度も別れると言っては彼に引き止められる。

 彼の気持ちが確かなものだと確かめるようなことを繰り返していたある日、とうとう私と彼との付き合いが両親の耳に入ってしまった。

「ダメだ」

 店を臨時休業にした土曜日。

 両親は揃って私の前に座り、さっきからこの言葉ばかりを繰り返している。

 今まで彼と会おうともしなかった両親をようやく説き伏せることが出来た。

 私の隣には持っているスーツの中で一番地味な黒いスーツの彼が座っている。

 もちろん交際を認めて貰うための場だったのに、彼は開口一番こう言った。

「美紀と結婚します」

 もちろん驚いた父は一喝し、母は気を失いそうになってしまった。

「君みたいな人なら何もうちの美紀じゃなくてもいいだろう」

「いいえ、美紀じゃないとダメです」

 きっぱりそう言いきる彼の横顔がとても頼もしくて、私はその言葉に勇気を貰った。

「そんなにうちの子と結婚したいというのなら、今の仕事を辞めてまともな職に就いてから出直しなさい。それなら考えてやってもいい」

「それは出来ません」

「なに!?」

「美紀は今の自分を好きになってくれた。それなのに自分を曲げてしまっては意味がない」

 いつかは自分の店を持つことが夢だという彼、ホストという仕事を選んだのも給料がいいからという理由。

 付き合い始めてから知った彼の本来の姿に私はますます好感を抱いていた。

 女性関係の悩みは尽きないけれど、彼は必ず不安を取り除いてくれる。

『ホストの俺はみんなの物だけど、たとえ一分でも俺を独占していいのは美紀だけだよ
 何度だって美紀を迎えに行く、何度嫌われたって、また俺の事を愛してるって言わせてみせる』

 もう別れるという度に彼はそう言って私を抱きしめてくれた。

 彼の気持ちがいい加減でないことは、私が一番知っている。

「そうだわ。先に子供を作ればいいのよ!」

「美紀っ!? 何を言い出すんだ!」

「だって子供が出来ればお父さん達だって認めるしかないでしょ?」

 思い切ったことを口にしたと思った。

 でも彼と一緒にいたい、いずれは彼の赤ちゃんが欲しい、そう思っていた私には自然と出てしまってもおかしくない言葉でもあった。

 しかめっ面をしたお父さんはジッと私を見つめ言いにくそうに口を開いた。

「それでも……ダメなものはダメだ」

 今まで大抵のことは許してきてくれていた父が見せる拒絶の姿勢につい腹を立てた。

「いいわ! そんなに言うなら家を出て行きます!」

 彼と一緒に暮らせるなら親子の縁を切っても構わない。

 その覚悟で私が啖呵を切ると黙っていた彼がようやく口を開いた。

「美紀、それはダメだ。俺は美紀と家族を作りたいと思っているけど、美紀から家族を取り上げるようなことはしたくない」

 彼のこの言葉が頑なだった父の心を揺らすことになった。

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