【1】

 庭の片隅に作られた小さな花壇、白いかすみ草が風に揺れる。

 子供達の笑い声で賑やかだった家の中が静かになった代わりに、庭には色とりどりの花が咲き誇るようになって久しい。

 とにかくやんちゃで何をするか分からない樹とまだ目を離すことが出来ない小さな麻衣、二人の子供を連れて家族四人の生活がここから始まった。

 それまで実家に世話になっていたこともあって、越して来た当日の竜ちゃんの誇らしげな顔は今でも忘れられない。

「俺にとって一番意味のある買い物だ」

 私の実家からほど近い売出し中の分譲住宅をキャッシュで買った竜ちゃん。

 自分の店を持つ為に貯め続けていたお金だったのに、いいの?と尋ねたら竜ちゃんは我が家を見上げてこう言った。

「俺に何かあったとしても、残すのは可愛いこいつらと美紀への気持ちだけだ」

 絶対に苦労はさせないと言う竜ちゃんにこんな日に縁起でもないと言って怒ったことをまるで昨日のことのように思い出せる。
 
 在りし日の記憶を懐かしみながらわが子を育てるように手塩にかけた花たちを眺めていると、温かいものに肩を包まれて顔を上げた。

「今日は風が少し冷たいな」

 肩に掛けてくれたストールは航空便で届いたばかり、アメリカで長く暮らす息子の樹からの誕生日プレゼント。

 ストールを掛けた竜ちゃんは隣に立つと肩を抱いて同じように庭を眺めた。

「綺麗に咲いたな」

 目を細める竜ちゃんの目尻に刻まれる皺、それが積み重ねて来た二人の歴史。

 私の手もいつの間にか陽に焼け若い頃の指輪も嵌まらなくなってしまった。

 それでも竜ちゃんは変わらずに側に居てくれる。

 私が竜ちゃんと出会ったのは18歳、地元の高校を卒業後、親戚の家に下宿して短大に通い始めた頃。

 竜ちゃんは20歳。

 出会いはハッキリ言って最悪だった。


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