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『10月の拍手小説オマケ(貴×祐)』後編
「あ、ごめん」
ぼんやりする頭で条件反射のように謝罪を口にする貴俊は小さくアクビをしたが、目の前で微妙な顔をしている祐二に小さな違和感を感じた。
「べ……別に、食いもんは頼んだから降りなくてもいいんだけど、よ……」
(あれ? そんなに怒ってないのかな、それに……サービスエリアで買い食いするのが好きな祐二なら俺のことなんて放って真っ先に……)
小さな違和感が少しずつ大きくなっていくにつれ、胸の奥にしまっておくことの出来ない感情が顔に出てしまう。
「な、何……ニヤニヤしてんだよ! 気持ち悪いんだよっ!」
「祐二、抱きしめていい?」
「ハアッ!? ふざけんなっ!」
「どうしよう、今すぐキスがしたくなった」
「ふざけ……っ、バ、バカ! 押し倒してんじゃ、おいっ……聞けって、貴俊っ!」
車のシートになだれ込むように祐二を押し倒し、激しく抵抗する手を拘束して顔を覗き込んだ。
大きな黒目がいつになく勝気なのに、触れなくても分かるほど熱くなっている祐二の顔のせいか、まるで誘っているように見える。
(ああ……本当に早く免許を取ろう)
家族がいつ戻ってくるか分からないこの状況で、頭の中では「マズイ」と思いながらも少しも抑えることは出来なかった。
最初は耳たぶへそれから頬へ、唇から伝わる肌の熱さは伝染して、自分の身体の熱を上げる。
「祐二……抵抗しないで。みんなが戻ってくる前に……ね?」
宥めるように重ねた唇の熱さに触れるだけにしよう、そう思っていたのになけなしの理性はあっという間に溶けていく。
何かを言いかけて開いた祐二の唇の隙間から舌を滑り込ませると、さらに熱い舌が追い出そうと硬くなって待っていた。
「ん……ぅ」
力んだ舌を宥めるように撫でていくうち、最初に掴まえていた手から力が抜けていった。
(可愛くて止めてあげられない)
拘束を解いた貴俊はその手で柔らかい祐二の髪を梳き、小さな抵抗を見せそむけようととする顔を固定させた。
「んぅ……っ、んっ」
硬くなっていた舌が柔らかくなり、まるで対の生き物のように差し入れた舌の動きに同調する。
何度も顔の角度を変え、舌を浅く深く差し入れて、漏れる喘ぎ声も吸い取った。
「も……た……、っし」
(このまま離れたくないけど……)
こんなところを家族に見られるわけにはいかず、仕方なく唇を離した貴俊はすぐに濡れた瞳を怒らせた祐二と目が合った。
「どこでも盛ってんじゃねぇ! 早くどけ……んっ」
名残惜しくてもう一度だけと重ねた唇で祐二の言葉尻を掬い取る。
短い濡れた音の後に離れた唇でにっこり笑みを作り、への字に唇を曲げた祐二の身体から離れた。
「ずっと寝てろ、バーーーカ!」
身体を起こしながら祐二が悪態を吐いた時、フロントガラスの向こうの方にちょうど家族の姿が見えて来た。
(また寝たら……肩、貸してくれるのかな)
貴俊は眠る前におぼろげに聞こえてきた祐二の言葉を思い出していた。
『寝にくかったら、もたれてもいいからよ』
自分なら膝を貸すのにと思いながら、いつか免許が取れて車を運転する自分に想いを馳せた。
end
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