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姫とお供’s

 無邪気は時として罪になる、ということを知らずに育ち今も現在進行形の姫が一人。

 姫の名は岡山珠子。

 今日も彼女は驚異的な破壊力を持つリーサルウェポンを内に携えて、お供の二人を連れて手芸用品を扱う店へ向かっておりました。

「何でお前がここにいるんだよっ! 俺は直々にお兄ちゃん買い物付き合ってと頼まれたんだぞ」

 お供その一、岡山拓朗。

「バカ言うな。俺は元々デートの予定だったんだ、邪魔してんのはお前だろうが」

 お供その二、三木本庸介。

 睨みあってはいるものの二人は物心つく前からの幼なじみ、互いに親友と認め合っている仲なのです。

 ただ最近は『彼女の兄』『妹の彼氏』と、少々複雑な関係に牽制し合う日々を送っておりました。

「ねぇねぇ! 二人とも早くー!」

 先を行く姫に手招きされれば、睨みあっていたはずのお供二人は一転笑顔に変わり我先にと側に駆けつけるのです。

 姫が真っ直ぐ向かった先は毛糸売り場、季節柄品揃えの豊富な棚の前で立ち止まると、クルッと振り返り二人の顔を見上げました。

 お供二人は自分こそが姫から声を掛けられるものだと信じて疑わず、姫が口を開くのを待っておりました。

「庸ちゃん、どれがいい? あのねー黒かなぁとも思ったんだけど、このグレーもいいかなぁと思って」

「毛糸?」

「うん。今年は庸ちゃんにマフラー編むの!」

 どうやら今回の勝負、お供その二の勝利。

 みるみるうちに頬を緩ませるお供その二はその一を押しのけて姫の横に並びます。

「そうだなぁ、グレーもいいよなぁ」

「やっぱりそう思う? あのねーこの黒とグレーの混じってるのとかどう?」

「おっ……いいな、それ」

 二人の世界に入り込めないお供その一は悲しみに暮れていると、選んだ毛糸を手に持った姫が振り返りました。

「お兄ちゃんは緑! 絶対これが似合うと思うの!」

 姫の手には二種類の毛糸、隣に並ぶお供その二が複雑な表情を浮かべる一方でお供その一は破顔一笑、姫の手から毛糸を受け取って買い物かごに入れました。

「じゃあ次はこっちー」

 ご機嫌は姫の言葉に従い後に続くお供二人の差は歴然、苦虫を噛み潰したようなお供その二と堪えても笑みが浮かんでしまうその一。

「お兄ちゃん、来て来て!」

 お供その一に声が掛かるといよいよお供その二は面白くありません。

 スキップしながら向かうお供その一の後ろ姿を睨みつけ、深いため息を吐きながらノロノロと向かうことしか出来ません。

「お兄ちゃん、これなら簡単?」

「そうだなー初心者向けみたいだし、写真も載って丁寧に説明がしてるあるから大丈夫じゃないかな?」

「見て分かりそう?」

「んーどれどれ。うん……これならお兄ちゃんにだって出来そうだぞー」

 毛糸の次はどうやら編み方の本を買うことにしたようです。

 お供その二は「ふんっ」と二人のやり取りを見ていましたが、姫の言葉にあんぐりと口を開けました。

「じゃあ大丈夫だね! クリスマスに間に合うように頑張ろうね!」

 姫はキラキラと瞳を輝かせながら、お供その一の顔を見上げて本を差し出しました。

「た……珠子? 頑張ろうって……」

「うん? だって間に合わないと意味ないもんね! あ、そうだー私の分の毛糸も買おうっと!」

 姫はそのまま毛糸売り場へと嬉しそうに駆けて行きます。

「俺……お前の手編みのマフラーとかしたくないんだけど」

「いや……俺だって自分の手編みのマフラーとか、それかなりヤバイだろ」

「ねぇねぇー! 白とピンクどっちがいいかなー?」

「「白!!」」

 声を揃えて即答する二人は嬉しそうな姫の笑顔に今日も絆されるのでありました。

おわり



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