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本場のハロウィン?

 街を彩るディスプレイがすっかり秋も深まって来た頃、かのこはずっと気になっていたことを思いきって口にしてみた。

「アメリカにいた頃って、やっぱりハロウィンパーティとかやりました?」

 アメリカ帰りの上司で恋人の和真は、淹れたばかりのコーヒーをかのこに手渡してからソファに腰を下ろした。

「まぁな。学生の頃はただ騒ぎたいだけって感じもしたが、同僚のファミリー主催のはまさにハロウィンパーティって感じだったな」

「ってことは……和真も仮装とかしたの!?」

 一番聞きたいのはそこだ、と言わんばかりにかのこの目が輝く。

「すると思うか?」

「ですよねぇ……」

 和真なら吸血鬼とかすっごく似合いそうとか思っていたけれど、予想通りの答えにそれ以上突っ込むこともせず、かのこはマグカップを両手で抱えた。

「最近でこそよくハロウィンって言葉を耳にしたり、ケーキ屋さんとかでもそれ用のお菓子とか見るんですけど、いまいちピンと来ませんよねぇ」

 クリスマスならまだしも、ハロウィンパーティなど小さい頃にやった記憶はない。

 それはテレビなどで見たり、店頭に並ぶハロウィングッズで、何となく気持ちが盛り上がるだけであまり実感はない。

 だからこそアメリカでの生活が長い和真にどんなものか聞いてみたかったのだが、和真が楽しそうに仮装をしているのは、それはそれであまり想像はしたくはない。

「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞーって言うんですよね?」

「なんだ、そんなにやりたいのか?」

「別にそんなことないですけど……」

 子供っぽいとバカにされたのかと、かのこは口を尖らせたが和真の顔を見ればバカにしている風でもなく、普通に笑っている。

「なんなら、やるか?」

「えっ!?」

 まさかの和真からの提案にかのこは驚きつつも目を輝かせる。

 もしかして和真もやりたかった? 仮装とか実はしたかった? とか一瞬のうちにかのこには珍しい速さで脳が動く。

「キスしてくれないと、イタズラするぞ」

「……え?」

 すごい速さで動いていた脳は一瞬にして機能停止状態。

 顔を近付けられ、目をパチパチとしばたかせるかのこは、手からマグカップを抜き取られたことも気付かず目の前の和真の顔を凝視した。

「い、今……なんて?」

「キスしないと、イタズラするぞ」

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 さっきと同じセリフ、だがかのこは恐る恐る口を開いた。

「お菓子をくれないと、イタズラするぞ……ですよね?」

「そうだな。でもお前……菓子持ってるのか?」

「も、持ってないですけど……」

「そうだろ? 最初から持っていないと分かっているのにそんなこと言うのは卑怯だからな。キスなら簡単だろ?」

 なるほど……とかのこは頷く。

 確かにお菓子を持っていないのを知っていて、お菓子をくれないと……と言うのは卑怯かもしれない。

「イタズラ、されたくなかったらキスしろよ」

 うっとりするような声で囁かれれば、かのこは静かに目を閉じて唇を寄せる。

 軽く触れるだけのキス……だけだったはずが、後頭部を抱き込まれそのまま深いキスへと引き込まれる。

 長く深いキスに少しずつ脳内が蕩けていく中で、ボンヤリしていたかのこは気付く。

 どっちでも結局は同じことになっていたのだと……。

end



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