Elan Vital 1
 目蓋を閉じたその向こうから、強い視線を感じる。
 左腕で抱きかかえられ、右手で美凰の身体を確かめながら雲雀が見おろしている様子が彼女にははっきりと解った。
 男性にしては稀に見るエレガントな手に優しく包まれて揉みしだかれる乳房と、時折軽く触れられ、撫でられるだけで硬く張り詰めてゆく薄桃色の乳首。
 露わな繊肩に唇が触れ、ぴんと伸ばした頸筋を紅い舌がなぞる。

「…、くっ…、ふ…、あっ…」
「……」

 逃れられない白い檻の中で、研ぎ澄まされた感覚が真珠の裸身を顫わせた。
 どんなに歯を食いしばろうとしても、漏れる吐息は止められない。
 乳首が雲雀の舌遣いにしっとりと濡れてゆく。
 柔らかな美凰の背は何度もしなやかにのけぞった。
 まだ少年らしさから逸脱できない背に縋りつきたい衝動に抗えず、美凰は雲雀の肩に爪を立てた…。



 初めてだという雲雀があまりにも巧みだったので、美凰は自分が喜びのあまり叫び声をあげていたことや、彼に自分という女を征服させてしまいたいという欲望にかられて本能的に身体を動かしていた事にも気づかなかった。
 自分自身の奥深い所から野性的な本性が浮かび上がってきて、奔放な女になっていた。
 感情の波が激しくうねり、その度に気を失ったまま目覚める事はないのではないかと思う程であった。





「草壁? ああ、そう…。僕、今週は休むからね。後の事は君に任せるよ。うん…。不測の事態が起こったら連絡してくれる? じゃ、頼んだよ…」

 雲雀が携帯をナイトテーブルに置く音に、美凰はゆっくりと身じろぎをした。
 情熱の名残にゆっくりと身を任せていると、蕩ける様な微妙な感覚が美凰の身体を包み込む。
 そこには甘美でぼんやりとした、今だけの満足感があった。
 少しずつ理性が蘇ってくるにつれ、昨夜から今までに自分がした事、雲雀にさせてしまった事の重大さがはっきりと解ってきた美凰は頬は薄く染め、花顔を強張らせた。

「……」
「起きてるんでしょ?」
「……」

 雲雀の腕の中にいた美凰は少し身体を硬くし、手で彼の胸を押しのけようとした。

「駄目だよ、美凰…」

 雲雀は耳元で囁く。

「逃がさない…」
「……」

 一体どこへ逃げるというのだろう?
 ここは美凰のマンションで、美凰のベッドだというのに…。

「お願い…」

 涙が溢れそうになるのを懸命に堪える。
 雲雀の腕に抱かれて安らぎたい気持ちもあったが、このままでいる事はどうしても耐えがたかった。
 美凰は雲雀に両手首を纏めて掴まれ、頭を彼の肩に引き寄せられた。
 雲雀の唇が乱れ散った黒紫の髪にそっと触れ、続いてこめかみにつけられるのを感じる。
 彼は身体を少しずらし、ゆっくりと唇を移して、美凰の額から両の目蓋、鼻、そして小刻みに顫えている柔らかな唇へと辿っていった。

「お願い、雲雀さん…」
「……」

 雲雀と呼んでも返事をしないと言っていた事を思い出した美凰は、か細く囁いた。

「き、恭弥…」
「…、なに?」
「一人にして…、戴けませんか…」
「……」
「お願い…、シャワーを…、浴びたいの…」
「……」

 雲雀は何も言わずに起き上がると、ぐったりとしている美凰をさっと抱き上げた。
 美凰が吃驚して喘ぐ様な声を出しているのにも、まるでかまわずに…。
 そしてわざとゆっくり、バスルームに向かった。





 温かいお湯が敏感になった互いの肌に穏やかに当たって、鎮痛剤の様な効き目を齎す。
 雲雀は何も言わずに石鹸を取り上げて美凰の手に置き、その手を取って自分の胸にゆっくりと輪を描かせ始めた。
 雲雀の熱い眼差しは艶冶な菫色をなした美凰の双眸にじっと注がれていた。
 心臓が止まりそうな最初の数秒間が過ぎると、美凰は彼の手を振り解こうとしたものの、結局は一層強く握られただけであった。
 美凰は抵抗する気力を完全に失った。
 雲雀がシャワーを止め、バスタオルで彼女の身体を拭き始めた時にも、黙ってされるままになっていた。

「いつもつけてるボディローションってこれだよね?」
「…、ええ…」
「つけてあげる」
「……」

 薔薇の香りのするボディーローションの瓶を取った雲雀は、火照った美凰の肌にとろりとした液体をつけ始めた。
 それは優しく誘う様なマッサージに変わり、彼女の全身を燃え上がらせる。
 美凰は信じられない程の欲望に駆られ、身体の奥に潜む自分でも気づく事のなかった官能的な力を意識した。
 やがて雲雀が瓶の蓋を閉めた頃には、美凰は力が抜け切ってしまっていてもう立っていられそうにもなかった。

「ベッドに戻ろう。いいね?」

 そう言われても『いいえ』と声を出す事さえ出来なかった。



 雲雀は先程以上にぐったりしていながらも、昨夜までとは比べ物にならない程に輝くばかりの生気を取り戻している美凰を再び寝室に運び、ベッドにそっと横たえた。
 そして自らも彼女の傍にぴったりと寄り添うと、しなやかな獣を思わせる身体を曲げて美凰の膝の内側に唇をつけ、焦らす様に足頸まで辿っていった。

「あっ…」
「じっとして…」

 雲雀の唇は更に少しずつ美凰の肌を滑ってゆき、愛撫の痕跡を紅く散らしてゆく。
 薔薇の香りがふんわりと漂い、雲雀の鼻腔をエロティックに刺激する。

「ん…、いい匂いだよ…」
「や…、だ、め…、もう…」

 豊かな乳房を執拗に愛咬され続けて身悶え続ける美凰の内腿をそっと開かせた雲雀は、秘められた花園の入口に美麗な顔を埋めた。

「あぁぁっ…」

 微かに漏れる掠れた嬌声と共に、くちゅくちゅと淫靡な蜜音が静寂のベッドルームに響き渡る。
 薔薇の花びらの様な秘処に唇をあてて何度も舐めあげた後、ぷっくりと膨らんだ珊瑚色の花芽を断続的に吸い上げていた雲雀は、視線を上方へと向けた。
 すぐ目の前にある漆黒の茂みの隙間から、花顔を火照らせて恍惚に浸る美しい表情が垣間見える。
 堪え切れない喘ぎが引っ切り無しに美凰の口から漏れ、余りの快楽の為かその眦には真珠の涙が浮かんでいた。

「あっ…、っやぁ…、あぁぁん…」

 紅く濡れる尖った舌先を充血した花珠へ押しつけて巧みに旋回させ続け、刺激を施してやると一瞬の内に美凰の白い裸体が跳ねあがった。

「ひぁっ! ひあぁぁぁんっ! あっ、あっ、あぁぁっ…」

 美凰は快楽の悲鳴をあげて昇り詰めた後、びくんびくんと身体を弛緩させてぐったりとなった。

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