\-x 出生異聞奇譚x 術師

「私は母では無いよ」

 さあ、良い子にして待ってくれているXANXUSの為にも、とっとと終わらせよう。そしてとっとと帰って美味しいご飯を食べて、今回の旅の話をするんだ。誰にするかはまた気分で決める。

「私があんたの言っているディアナの娘である事は事実だ。でも、それでも私はディアナではない。もうヴェリタでもない。ただヴァリアーに所属する、人より殺しが得意なアレスでしかないの」
「そんな事はないですよ。お前はヴェリタだって読んだでしょう」
「母は、私を名前で呼んだことがなかった」

 何故なのだろうか。理由は母にしか分からない事ではあるが、少なくとも何かしらの理由がある事は確かだ。私に名前を教えなかった。

「あの手記は本当に本物だったのだろうか。いや、全てが本物だったのだろうか」
「何を言っているのです」

 私の憶測だと、名前を教えられなかった理由は私を守る為。何から守るのかと言うと、彼女の実家だったり旦那だったり様々であろうが、私の名前を知り得た人間は少ない。

「母の生前にヴェリタという名は知っていたか?」
「そんな事今は関係無いでしょう。そろそろこの男を処分しますよ」
「さっきまで悠長に話していたのに急にどうしたのさ。それにうちのボスはあんたなんかに殺されやしないよ」

 分かった。私の憶測が正しければ、母は私をこの男から守ろうとしたのだ。あの手帳の最後の部分の違和感はこれだ。偽造でもされていたのだろうか。アレスとしてはどうでも良い事なのだが、母の死の真相を暴くとなると多少気になる事ではある。


「さあ、終わらせよう。XANXUS、やっと帰してあげるからね」
「子供をあやすような言い方してんじゃねえ」
「似たようなもんでしょ、お昼寝してたし」
「暇だったからな」

 とっとと終わらせろと言わんばかりの欠伸をされてしまった。見てろよ。
 こいつを倒して、手記の確認をして、その後この話をネタに話そう。誰と話すかは気分で決めると言ったが、恐らくこの人に話す事になるのだろう。親の話をするのは難しい相手だが、そもそもまともな親を持つ奴はヴァリアーにはいない。私もだ。

「ここが誰の幻術の世界かお分かりですか?全ては私の思いのままですよ」
「さっき、私も術師の才覚がどうとか言ってたよね。少なくとも天才術師の手腕を見てきたのだから、出来るなら、出来るはず」

 幻術をしかける時にはどうしたら良いのだろうか。とりあえず想像してみて、力を……炎を集中させてみよう。何にしようかな、ボンゴレと言えば貝でしょ。貝といえば……。

「なん……だと……!?」

 気がつくと私達は海の上にいた。水面に立っているのだ。貴重な体験である。光景としては貴重だが、本当の海ではないことが残念でならない。

「あんたは私の母を殺し、そして私がそれを知っていたら殺す気でいたんだろう。知らなければ力のある私を仲間に入れ、上手く利用しようとしていたのかな?」

 そして殺した後に手帳を見つけて、回収した。まあその憶測が合っていようが今は関係ないけどね。

 交渉するにおいて盾ついた奴は皆殺し。これが生存者相手の交渉成功率100%のヴァリアークオリティなのだ。

「あんたの幻術、大したことないね」

 水で奴を覆って大剣を勢いよく振り上げる。そして水の幕を真っ二つにすると、辺りの景色は元の部屋に戻り、目の前には頭から股まで真ん中を大きく斬られた奴の姿があった。流石に生きてはいないだろう。

「ふん、遅え」
「お父さんらしいから、ちょっと話してみたよね」
「とっとと帰るぞ」
「待ってよ、部下拾って行くよ!」

 XANXUSが部屋から出てしまったのでそれに続く。そして状況を伝える為、スクアーロにメールを入れておく。ヴァリアー邸も襲われているだろうから、その謝罪も兼ねて。そして早くに雑魚を処理した部下が呼んでいたらしく、遺体処理班はすぐに来た。

「普段通りの処理で良いでしょうか」
「あー、あの応接室で真ん中切れてる奴の血液は取っておいて。後で調べることがあるから」
「分かりました」

 何となく、一応調べてみる気になったのだ。


 血のついた制服から適当に持って来た服に着替え、血まみれコートくんは袋に入れて鞄に仕舞う。黒だから目立たないものの、毎回綺麗にする人は大変だろうなと思う。

「お付き合い頂きありがとうございました」
「大掛かりな親子喧嘩だったな」
「XANXUSに言われたくないんだけど」

 奴と親子認定されることは釈だが、それでも無事に仕事を終えた達成感や爽快感が勝った。

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