[ 人生相談

「アレスが相談なんて珍しいね」

 私は人生相談の先をマーモンにした。とは言え、人生相談をしますと言っても話を聞いてくれなさそうだった為、お金の相談ということにした。

「自分からけしかけたことに関して慰謝料って取れますか?」
「無理だね」

 やはり無理か……つまり非は私にあるということだ。本当に申し訳ない。いやでも誘ってきたのはXANXUSだし、それに私が釣られたらきちんと手を出して来たのだ。しかも起きてから何も無かったかのようにされた。全く気にしていないという素振りだった。

「相手の誘いに私が乗って、その誘いに相手が乗った場合は?」
「何その状況。もっと具体的に言ってもらわないと分からないよ」
「うっ……」

 マーモンが何言ってんだこいつという顔をしてくる。フードで見えないが。そもそも大元は見た目はまだ幼いマーモンに聞いて良い内容では無い。いくらアルコバレーノの呪いから解放されそこから肉体的に成長したとは言え、まだまだ幼い見た目をしていることは確かだ。罪悪感が生まれた。
 けれど他に聞ける人はいない。スクアーロは真剣に悩んでくれそうだが逆に面倒だ。ルッスは楽しんで終わりそう。レヴィは論外。ベルのようなスピーカーに話して良い内容でもない。幹部の部下に話すのは私の威厳に関わるし、消去法でマーモンに相談することにしたのだ。

「えっと……相手に詐欺して良いかと聞かれ、私が良いよと言ったら私が詐欺被害に遭った……みたいな」
「まさか、アレスがそんなヘマする訳無いでしょ。でもその場合なら相手が詐欺を自分にしていると知りつつ詐欺に遭ってるから慰謝料請求は出来ないよ」
「細かくありがとうございます……」

 例がしっくりこないが、相手に非があろうと私にも非があることは明らかなようだ。別に欲求に流され行為に至ることは全く悪いことだとは思っていない。だが今回は相手が悪いのだ。今まで長く付き合って来てそんな事をした事もない相手、しかも順当に行けば死ぬまで付き合っていく相手だ。とても気まずい。
 私は今までやった相手は基本的に殺してきた。私の体を知っている人間が生きているというのが気持ち悪く感じるからだ。あと後腐れ無い方が人生前に進みやすい。相手の肉体は腐るが。
 でも今回は殺せないし気まずい。XANXUSを見る度に気持ち良かったのを思い出すような事があるといけないし、意外と優しいんだなとか考えてしまってはいけない。仕事に邪念は持ち込みたくないのだ。

「さてはアレス、男に手を出して後悔しているんだね」
「な、何言ってんのかさっぱり分かんねえ」
「後悔するくらいなら手を出さなかったら良いのに、人間は面倒だ」

 それはそうなのだ。結局己の欲望に負けた私が悪いのだ。XANXUSが誘ってきたと言ってはいるものの、そもそも彼は頭を撫でてきた私を止めたかっただけなわけだし、別に誘ってきた訳ではない。そして彼は私が迫ってくるのを見て断るような貞操観念をしていなかっただけなのだ。私と同じだ。
 けれど、朝起きてムラついたらすぐに手を出す女だと思われた可能性があるのが悔しい。ここまで何年もかけて築いた信頼が一気に崩れ落ちたような気がしたのだ。別に私が貞淑な存在だと幻想を抱かれていた訳では無いだろうが、それでも悔しいものは悔しい。

「まあそわなことは嫌なら忘れることだね。そもそもそのような行為をするのは本能的に仕方のないことなんだし、相手がいて成立するものでもあるんだからさ」

 マーモン先生の励ましが身に染みる。朝から楽々女を抱く男だという弱みは(ある意味強みかもしれないが)こちらも握っているのだ。つまりお互い様なのだ。だから私だけが身を恥じ、後悔することはないのだ。

「ありがとう!すっきりした!」
「こんな下らない話を聞いてやったんだから相談料くらい貰わないと割りに合わない」
「おいくらですか……」

 誰にも相談出来ないであろうXANXUSは一人で苦しめば良いのだ。全く気にしていない可能性の方が高いが、やはりそれはそれで悔しいというものだ。存分に悩んで苦しんで、結局解決する術は無いことを悟ってほしい。

「た、高い!」
「僕の貴重な時間を割いたんだよ」
「私の老後の資金が……」

 それからはXANXUSと顔を合わせる度に緊張し、ついでにムラッとしたが、少しすると元通り何も感じなくなった。

[ 10/26 ]

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