Z-ii 弾丸東京旅行ii 後編

「これではジェット機を飛ばすことは出来ませんね…」
「え!帰れないの!?」
「一瞬を切り抜けられたら何とかなるとは思いますが、その間に墜落してしまう可能性も高いです。どうやらこの雨雲は広範囲みたいですし」
「何それ、どうすれば良いの!?」
「ぼ、ボス……」

 帰れない?帰れないの?かなり面倒なことになったな、と頭を抱える。別に日本で一泊することは構わない。そして明日の朝にとっとと帰ることも構わない。だが、泊まる準備などは全くして来ていないのだ。クレンジングは部屋にあるだろうか。化粧品は最低限のものは持ち歩いている。問題は着替えだ。

「一番良い所を取れ」
「かしこまりました!」

運転手として連れて来た者とXANXUSの部下が色々なサイトを見ながらせっせと予約の電話を入れている。真夜中に突然電話をかけて来て良い部屋用意しろと言う面倒な客である。XANXUSにビジネスホテルが似合わないのは当然なのだが。

「あの、ボス……部屋はあったのですが、その」

 電話中の部下さんが恐る恐るXANXUSを見る。こいつはとっとと話せという目をする。赤ちゃんだからそろそろおねむなのだろうか。

「今空いている中で最も良いホテルは1部屋しか空いておらず、ボスとアレス様で一緒に泊まって頂くことになるのですが……」
「いや待て待て待て」

 相談すらされていない私が会話に割って入る。それはXANXUSより私に了承を得るべきことでは無いのだろうか。なぜ私が、XANXUSと同じ部屋で寝泊りをしなければならないんだ?

「アレス様、お分かり下さい」

 理由は何となく想像がつく。まずXANXUS一人でそのホテルに泊まらせることは出来ない。最低でも他の人が必要だ。なぜならXANXUSは赤ちゃんなのだから。そしてこの場合は同じ部屋で泊まることとなる。そうなると同じ部屋に私と部下さんとドライバーさんの内誰か、もしくは全員を入れる必要が出てくる。そしてこの部下と運転手は同じ部屋に泊まりたくないのだろう。ならば同じ部屋に泊まってもまず死ぬことはない私に押し付けようという魂胆なのだ。

「いやいやいやそれにしてもおかしいでしょ!他のホテルじゃ駄目なの?」

 そう聞きながらXANXUSを見ると大変嫌そうな顔をする。厳密に言えば表情は変わっていないのだが、雰囲気で分かるのだ。

「明日ご連絡をしてすぐ迎えに行きます。ですので、お願い致します」

 良いホテルに泊まる、というXANXUSの夢をここで壊すのは忍びない。対して一応ヴァリアー隊員が寝相でついつい殺されるなんて事があってはいけない。そして別に私と同じ部屋で寝泊りすることなんてXANXUSは気にしていないみたいだ。

「分かった。早く連れて行って頂戴。チェックインくらいなら自分で出来るから」
「ありがとうございます!」


 この時の事を10時間後には後悔することになるとは思ってもいなかった。XANXUSと同じ部屋なんて私も嫌だ!と公平にジャンケンにでも持ち込んでおけば良かったのだ。そこで私が選ばれたのならば最早そういう運命だったのだろう。


「……」

 目を開けると目の前にXANXUS。この光景が夢ではなかったことを物語っている。私たちは裸で同じベッドに寝ているのだ。机にめちゃくちゃティッシュが置いてある。
 これでご理解頂けるだろう。つまり、やっちまったのだ。XANXUSとやっちまったのだ。ついついやっちまったのだ。

 いや、これはこいつが悪いんだ、と頭の中で謎の弁明をする。
 昨日の夜、部屋に入りベッドが一つしか無いことを理解した私は潔くソファで寝ることを決め、XANXUSの後にシャワーを浴び、速やかに寝たのだ。そして朝目が覚めて彼の様子を伺うと赤ちゃんのような寝顔を拝むことが出来てしまったのだ。そして私は勝手に母のようなつもりで彼のベッドに侵入し、頭を撫でてしまったのだ。このまま起きなければ可愛いだけなのに、と思いながら。するとXANXUSが急に動き私の腕を掴んで睨みながらこう言ったのだ。

「何のつもりだ」

 もうこれに負けてしまった。私のムラムラはピークだ。これまでも私を抱こうとする男がメガネを外す瞬間、ネクタイを緩める瞬間、口調が荒くなる瞬間などに負けてきた。つまり、かわいい寝顔から睨む顔になったギャップにやられてしまったのだ。気がついたら私から仕掛けていた。

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