第2話 オーバーホールという人間は

「行くぞ」
「はい」

 彼はオーバーホール。指定敵団体「死穢八斎會」の若頭だ。それにしても、今日も顔が綺麗だ。まあマスクでほとんど隠しているわけだが。マスクの趣味は最悪だが、服装はオシャレである。この一張羅を大切にしているようだ。
 今から会うのは敵連合とかいう組織だ。オーバーホールが一人で招待されていたが、私の同伴を条件にしたところすんなりと受け入れてもらったそうだ。なぜなら私は彼のお気に入りだからだ。今までもよく盾としてこの身を崩してきた。ある時は死にかけのじいさんに抱かれ、ある時は四肢を飛ばした。
 トゥワイスという男に連れられて着いたのは薄汚い倉庫だ。オーバーホールは潔癖症だからこういう場所は苦手だろう。とっとと終わらせた方がいい。

「とんだ大物連れて来たな」

 そう言った男は顔面や腕に手をつけている。気持ち悪い趣味してるな。オーバーホールのマスクより強烈だ。
 そしてオーバーホールは敵連合を取り込む交渉を進めたが手の男は「帰れ」と一言言ってきた。そしてサングラスのオカマが臨戦態勢に入った。オカマが恐らくオーバーホールに個性を使っている間に奴の腕に触れる。そしてその手を握ったら男は倒れた。これは私の個性で、物に触れた手を5秒以内に握ったら思い通りに麻痺を起こさせることができるというものだ。
 するとシルクハットの男がオーバーホールに向かった為、例の薬を仕込んだ銃を撃ち込む。

「触るな」

 鳥肌になりながらそう言ったオーバーホールはシルクハットの左腕を破壊した。ああ、可哀想だ。綺麗な顔に返り血を浴びてしまって。腕を拭っている彼のもとに手の男が飛び込んだ。
 私は反射的にオーバーホールと男との間に入る。手の男が触れた腰の部分から私の体は崩れ始めた。恐らくオーバーホールが私を直してくれるだろう。いや、直して貰えなくても別に構わない。私はそのまま意識をなくした。

 自室で目を覚まし、オーバーホールが私を直してくれたことを知った。そりゃそうだ、彼からしたら私は扱いやすい駒だ。自分に惚れており損得関係なく必ず裏切らない人間は貴重なはずだ。いくら彼の個性が有能であっても力だけ全ての人を従えることは不可能だ。とりあえず組員の談話室へと向かう。生きているのだから何かしらを飲みたいし食べたい。
 私の生活スタイルはオーバーホール次第で決まる。オーバーホールが突然命じることもあれば計画して命じることもある。私はそれに従うだけであり、彼の指示以外の時間は酷く退屈にしていた。ただ食べたり飲んだり特訓したりスマホでゲームをしたりしている。
 組員の談話室とはいえ基本的に誰もいない。昼は普通に働いている者もごく僅かいるし、人と関わるのが大好きな連中じゃないから部屋に篭っていたりもする。基本的には実験に立ち会ったり仕事をしたり特訓したりしているようだが。
 案の定今日も談話室には誰もおらず、冷蔵庫からお茶を取り出す。私が水出しのティーパックで作った麦茶だ。また、適当に誰かが買ってストックしたのであろう食パンを1斤丸ごと持って部屋に向かった。

「敵連合の奴が来る。来い」
「はい」

 同じ日、オーバーホールが呼び出しに来た。基本的に私への命令はオーバーホールが直接行う。そんなご褒美をちらつかせなくとも私は従うというのに。
 ソファに座るオーバーホールの斜め後ろに立ち、敵連合の奴を待つ。しばらくすると手の男が一人でやって来た。こいつはいちいち態度が悪いから嫌いだ。
 ただオーバーホールが色々と話を進めた。相手はこちらのことを色々と知っているようだった。そんなちっぽけな組織でもするべき事はできているようだ。

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