第1話 私という人間は

 私は一人で生きてきた。齢5歳にして敵に両親を殺され、それからは施設で育った。高校生になると施設を出たが高校は中退して働いて生きてきた。当時の仕事は簡単な人殺しで、麻痺の個性を持つ私としては簡単なものだった。相手の心臓を麻痺させてしまえば、勝手に心臓麻痺として処理される。こうやって一人で生きていく為の個性だと思っていた。

 私は今ある人の下で働いている。彼はとても凄い人だ。自分の理想の為に困難にも立ち向かい、成し遂げる。そんな彼の代わりに人を殺し時には盾になって死にかけることが私の役割だ。死んだら盾にはなれなくなるから死ぬことは仕事ではないそうだ。しかし、彼に歯向かえばすぐ殺されるらしい。彼の個性は大変強力だから私の命すらも容易に支配できるのだ。

 彼に拾ってもらった恩があるわけではない。私は一人でも生きていけたからだ。彼の考え方に賛成しているわけでもない。人を殺すのは自分の仕事以外ですべきではないし、別にヤクザがどうであろうと興味はない。
 彼は本当に酷い人だ。仮にも自分の娘としている女の子を切り刻み実験している。彼の個性さえあれば壊すも戻すも自由だ。それを良いことに普通の倫理観を持ち合わせてさえいたらするはずのない事を繰り返す。流石にそこまで壊れてはいないから私にとって理解できる事は何一つとしてない。

 それではなぜ彼の為に命をかけているのか。理由は簡単だ。惚れているからだ。顔が好きだから、一目惚れをした。彼にあの顔がある限り、私は彼の矛となり盾となり続ける。

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