第4話 謎ベンチ

 その後教室で荷物を持って帰ろうとしたら赤い髪の人に呼び止められた。切島くんというらしい。どうやらクラスのみんなで訓練の反省会をしているらしい。なんと青春っぽいのだろうか。私の今までの放課後と言えば依頼を受けて殴り込みに行くくらいだった。とんでもない。

 ふと思う。この人たちなら、私が元の姿であっても受け入れてくれるのではないか、と。今の私はただ髪を染めるなどしているが、それは真面目っ子を演じる為だ。本来の私は短気で粗暴で考えなしに突っ込むだけの人間だ。別にそんな自分を隠したいわけではない。ただ、真面目っ子を演じるのは少し窮屈だ。けれど、突然「実は私めちゃくちゃ荒いんです」なんて言っても意味が分からないだろう。一度偽ってしまったものを変えるのは難しい。

 その次の日のHRで学級委員長を決めることとなった。めちゃくちゃ委員長になりたそうな真面目メガネの飯田くんが投票制を提案する。彼は私が思い描く真面目な人の図そのものであったから、彼に投票した。私は学級委員長などなりたくない。こんな未熟な私がなっても良いことはないだろう。結局学級委員長はもじゃもじゃ頭の緑谷くん、副委員長は八百万さんに決定した。

 そして昼休憩。私は財布を忘れて来てしまい、昼食にありつけずにいた。人に気を遣わせたくはなかったから、校舎裏になぜか置いてあるベンチに腰掛けて本を読むことにした。中学校は休憩時間にこっそり学校を抜け出せたから財布を取りに家に帰ることもできたが、雄英はセキュリティが頑丈すぎてこっそり抜け出すことができない。昼食は諦めるしかなかった。
 本を読んでいると人の気配が近付いてきた。ジャリという音の方を見たらそこには顔怖いさんがいた。名前は確か爆豪くん。名前からして爆発しそうな名前である。爆豪くんもまさか私がいるとは思っていなかったようで気まずそうにして引き返した。大方、静かにゆっくりと考える場が欲しかったのだろう。昨日の様子だと。まあ彼の心境がどうであれ私がちゃんと過ごせたらそれで良い。関係のないことだ。

「おいクソ陰キャ」
「はい?」

 まさかこっちに来るとは思わなかった。何がしたいんだこいつ。正直めちゃくちゃ関わりたくないし相手もそれは望んでないだろう。

「お前ずっと白々しいんだよ。それくらいで良いだろ気持ち悪い」

 言っている意味が分からない。ただただ気持ち悪いと言われたことは分かった。シンプルな悪口だな。

「何が?もっと分かりやすく言えよ」
「それ。口調だよ口調。クラスにいる時とか昨日廊下ですれ違った時とか、気持ち悪いんだよ。普通に喋れや」

 口調…口調か!そういえば爆豪くんと話す時はイラッとしてつい普通の口調になってしまっていた。そうか、頑張って真面目っぽくしている口調が彼には気持ち悪く感じたんだ。もしかしたら他の人達も気付いてそう思っているかもしれない。

「ま、俺しか気付いてねえと思うけどな。他の奴らは馬鹿だし」

 またシンプルな悪口。しかし、これはきっと私の考えを汲み取ってフォローしてくれているということなのだろうか。この人がなぜわざわざ話しかけてきたのか、一体何を言いたいのかは分からないが、良心とよく出来た頭脳はあることが分かった。

「ところで爆豪くんは何でここに来たの?」

 私が気持ち悪い話はもう良いだろうと思い、疑問を投げかけてみる。意外と話せる人間だと思っているのかもしれない。顔は怖いけど。

「教室うるせえから」
「あーね」

 煩い場所は好まないらしい。自分を中心に騒ぐのは構わないが、人の輪に入って行って一緒に楽しむなんてことはしない人なんだろうなと思った。顔と態度で分かることではあるが。

「昨日…」

 そう口にした瞬間、けたたましい音に支配された。警報の音らしい。どでかい音のアナウンスが続く。

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい』

 セキュリティ3突破?よく分からないが一応屋外にはいるから気にしなくても良いのだろうか。万が一敵の侵入とかであっても爆豪くんがいるから何とかなるだろう。せめて人の目に触れる場所へは行けるはずだ。同じことを考えているであろう爆豪くんも落ち着いてこの場から動く気はないようだ。

「あと、爆豪くんってのも気持ち悪いわ」

 じゃあ呼び捨てになっちまうな〜と言いながら肩を小突いてみると「調子に乗るな」という目で見られる。友達を作る距離感がよく分からない。いやこいつは友達なのか?

 どうやら侵入者はマスコミだったらしく、事態はすぐに治まった。この騒動では飯田くんが活躍したらしい。午後の時間で委員長が緑谷くんから飯田くんへと変更になった。
 それにしてもなぜマスコミが侵入できたのだろう。ここは財布を取りにも帰れないようなセキュリティをしているのに。そういう個性を持っているマスコミが暴走したのだろうか。疑問には思ったが全く答えが分からなかった為、その疑問はすぐに消え去った。

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