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▼ ピクニックへ行こう



「今日さぁ、ピクニックに行かない?」





上を見上げれば青々とした気持ちのよい空が広がっている。
まさに秋晴れのある日、彼等には多分聞き慣れないであろう私の放った単語に、両隣で座っていた張苞と関興が動きを止めて私を凝視し、首を傾げている。





「ぴ…ぴく…?」



「張苞…ピクニックだよ」





慣れない横文字の英単語を初めて話す日本人のような…彼の舌を噛む言い方に思わず笑いが込み上げる。





「…ぴくにっく、って何?」



「ピクニックって言うのはね、食事とかを持っていって大自然の中でゆっくりしたりすることだよ」



「そうなんだ…愉しそう…」





張苞とは対照的に、聞き慣れない単語を彼の持ち前の器用さで違和感なくさらりと発音した関興は、その意味を教えると少し嬉しそうに微笑んだ。
彼はその中性的な見掛けやマイペースな性格からしても、こういうイベントを好みそうな事がある程度予測できる。





「秋になって涼しくなったし、お天気もいいし。
たまには気分転換してお出かけしない?」



「でもさ…別にわざわざ出掛けなくても蜀宮の中も自然なんて沢山あるし、外で食事してゆっくりすればいいんじゃないか?」





張苞が面倒くさそうに話した。
関興と対照的な男らしい外見、その明るい快活な性格からして、彼にはこういうイベントは向いてなさそうだ。
じっとしていられない性格をしているから。





「まぁ、そうなんだけど。
この間、車で走ってて…景色の良い場所を見つけたのよ。
だからそこでゆっくり出来たらなって思って…」



「ふーん」




『ふーん』ですか。
明らかに興味が無さそうな張苞の声色と態度。
私としては大分乗り気で誘った手前、こういう態度をとられてしまうと流石に少し落ち込んでしまう。





「予定があるなら、別にいいんだけどね」



「予定はないけどさぁ…」





やはり乗り気ではない様子だ。
いつも何かしらのイベント事の提案には、張り切りすぎる位賛同してくれる張苞がこんなに反対しているのだから、今回は諦めた方が良いのかもしれない…という残念な気持ちが頭を掠めた時、彼には珍しい位にはっきりした関興の声が響いた。





「行こう?」



「えっ?」



「私と一緒にぴくにっくに行こう?」



「関興…?」



「萌と一緒に行きたい」





そう言って、関興は柔らかい笑顔で私に微笑みかけた。
年下の可愛らしい美形な男性にこう懇願されて、断れる年上女性って世界に何人いるんだろう。
そんな疑問が頭に降って湧いてくる位に嬉しい気持ちになる。
微笑み続けながら私をじっと見詰めている関興が、キラキラと輝き、まるで天使のようだ。
どうして彼はこんなに可愛いのだろう。
頭の中で興奮する気持ちを冷静に抑えて、笑顔で言葉をつなぐ。





「ありがとう。
じゃあ、行こっか?」



「うん」





座っていた関興が私に右手を差し出した。
行動の意味がわからず戸惑っていると、ふわりと左手を握られる。
突然握られた大きな手、その温もりににドキンと心臓が波打つ。





「食べ物、貰いに行こう」





あ、あぁ。
ご飯か…。

彼は意味があるのかどうなのか…私に対するスキンシップが多い。
それは彼の家族をはじめ、仲間たちからの異様な眼差しを時に受ける場面もあるぐらいに多い。
元来、あまり他人に心を許さない彼のこと、信頼されているようで嬉しいが…彼ぐらいの美形に手を繋がれたり、抱きつかれたりすると、私の心臓が持たない。



他意はないのよ、他意は。
彼は天然なのだから。
そう…彼は天然。

流行る心臓を落ち着かせながら、そう頭に言い聞かせる。





「うん、そうだね」





関興の手をぎゅっと握りしめ、二人で立ち上がった直後に張苞が叫んだ。





「俺も行く!」



「さっき、あんまり乗り気じゃなかったじゃない」



「張苞…無理しない」



「無理してない。
気が変わったんだ!」





張苞は私と関興の言葉を特に気にすることもなく、その場をすくっと立ち上がった。





「…だって、ねぇ?」



「うん」





最初、あんまり乗り気じゃなかったくせに…180度意見が変化したのには何か理由があるのか。
思わず関興の様子を伺うと、彼も私と同じことを思っているような表情をしていた。





「ほら!
行くぞ」





張苞は先程のやり取りはすっかり忘れてしまったかのように、関興に繋がれている左手とは反対側の私の右手をぎゅっと握って走り出した。

『わっ!』と声をあげたのと同時に関興と繋いでいた手が私の意志とは関係なく離れる。





「…張苞、狡い…」



脚の早い張苞に引っ張られながら、何とかついて行く。

関興を振り返ると、少し淋しそうな表情を浮かべていたが直ぐに私達に追い付き、私の左手をまた掴んだ。


関興、張苞に両手を繋がれ、引っ張られる。
脚の速い…若い彼らに、私がついていけるはずもなく、徐々に息が切れ始める。





「はぁっ、はぁっ…!
ちょ、ちょっと!
こんなときに対抗意識燃やさないでくれるっ!?」





何とか張り上げた大声が風の中に消える。
聞こえたのか聞こえていないのか、結局食堂まで二人に全速力で引っ張られたのであった。

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