▼ /→張苞とご飯
一つ目の拠点を出発して、三時間ほど二つ目の拠点に到着した。
合わせて四時間。
結構疲れた…。
みんな若いからか、拠点着いた早々にはしゃいでるし。
有り得ない。
私は拠点の一室を借りさせてもらって、完全にのびていた。
寝転んで身体をのばしていると気持ちいい。
本当よく運転した。
もう夕御飯の時間。
書簡を届ける姜維以外はみんなご飯を食べに行くと言っていたが、私はとにかく休みたかったので、別行動した。
今頃美味しいご飯食べてるかな…。
なんか眠くなってきた。
予想以上に運転って疲れるんだな。
寝転んでいると、どっと睡魔に襲われた。
少し寝よう…少し…。
私はそのまま意識を手放した。
「萌〜!
おーい!
起きろ〜!」
突然耳元で響いた声に私は飛び起きた。
「な、何っ!?」
「起きたか?」
目の前には張苞が爽やかな笑顔で笑っている。
「私、寝てた?」
「寝てた。
気持ちよさそーに」
「そっかぁ〜…。
どれくらい寝てた〜?」
「もう、夜だ」
「えーっ!」
そんなに寝てたのか…確かに心持ちスッキリしてるかも。
「疲れてただろうから、もう少し寝かせてあげたかったけど…まだ飯も食べてないだろ?」
「うん…お腹空いた…」
急に小腹が空いてシュンとなる私を見て、張苞は笑った。
「ははっ!
そう言うと思って食事持ってきた!」
私の目の前に美味しそうなご飯。
一気にテンションがあがる。
本当張苞って豪快に見えて、こういう嬉しい気遣い上手いんだよね。
「張苞大好き〜!
美味しそ−!!」
手放しで喜ぶ私を見て張苞も嬉しそうな顔をしている。
「…大好きか。
そんなに嬉しかった?」
「うん、凄い嬉しい!
頂きます!」
「どうぞ」
お腹が空いてたのもあるし、美味しいのもあるし、パクパク食が進む。
「美味し〜!
幸せ〜!」
ふっと視線をうつすと、何だかにこにこしてる張苞。
「何?」
「…お前、いいな…」
「何が?」
「恥ずかしげもなく美味しそうに飯食って。
俺、そういうの好きかも」
「そ、そう?
男みたいでしょ?
よく言われる」
「いや。
幸せそうで、見てると俺まで幸せになる」
そう言って私を見つめて微笑んだ張苞はいつもより大人っぽく見えて、少しドキリとした。
私が食べてるの、ずっと見つめてるし…。
…た、食べにくい…。
何か話題話題!
「とっ、ところで皆は?」
「関興と星彩と銀屏は今温泉に入ってるぞ」
「えっ!?
温泉行きたい!」
「飯食べたら行けよ。
拠点の中にあるからさ」
「張苞はもう入ったの?」
「ああ」
そう言えば髪の毛が濡れてるし、なんかさっぱりした感じ。
ん?
でも…。
「関興と一緒に入ってたんじゃないの?」
「入ってたけど、あいつ風呂長いんだよ。
多分今もじーさん並みに湯船に浸かってるぜ」
…ぶっ。
似合いすぎて笑える。
「ふふ…温泉好きそうだったもんね。
…姜維は?」
「あいつは書簡届けて、今食堂で飯食べてる」
「えっ?
じゃ、私も姜維と一緒に食べればよかったね」
「…いいんだよ」
「でも姜維も独りなら…」
「お前は俺と飯を食べてればいいの!」
「…そう?」
心なしか張苞の顔が赤くみえる。
何照れてんだろ…?
そんなこんなでご飯を食べ終えた私は張苞と部屋の縁側で寛いでいた。
「お腹いっぱい〜!」
そう言いながら伸びをすると、運転で固まっていた身体が気持ちいい。
と、同時に身体の節々に痛みを感じる。
「あ〜、イタタタ…〜」
「ぷっ!萌もばーさんみたいだな」
「もう!失礼な!
車の運転って結構疲れるんだから!」
「……揉んでやろうか?」
「嬉しい!
じゃ、肩の方お願いします」
「……全然緊張してないし…」
「えっ?」
張苞に背中を向けようとしたとき、彼がぼそっと呟いた言葉が聞き取りずらくて…聞き返せば『何でもない』と言われた。
そして、すぐ後に肩に気持ちのいい感覚が広がった。
……ぁー至福…。
大分凝っていたので男の人の力がちょうどいい。
「気持ちいい〜…。
張苞、上手〜」
「そうか?
時々親父にもしてるからかな?」
関興も張苞も本当親思い。
いい息子だなぁ。
「背中の方もしてやるよ」
そう言って、彼の指が私の背中に移動する。
せ、背中は…。
「ひゃっ!?」
身体がピクリと跳ねる。
くっ…くすぐったいっ!
「ちょ、張苞っ!
背中はしなくていいっ!」
「…何で?」
「ひゃあ!?
くっ、くすぐったいっ!」
「…この辺も?」
「ひゃっ!
だからもういいって!」
一生懸命身を捩るが背中をがっちり固定されて動けない。
刺激される度に変な声がでてしまう。
「…萌…俺…」
「もう!いい加減に…っ…」
張苞が私の耳元で囁いたのと同時に背中の力が緩んだので、彼の方へ振り向くと至近距離で視線が合った。
まるで時がとまったかのように瞳が反らせられない。
「…萌…」
張苞の指がそっと私の頬に触れ、唇が近づいてくる。
…キス…される?
面白いぐらいに心臓の鼓動が速くなっていく。
「萌〜!
起きた!?」
もう少しで唇が触れそうな瞬間、可愛い声が響いたかと思ったら、ばんっと部屋の扉が開いた。
『!?』
私達はほぼ同時に身体を引いた。
入ってきたのは関銀屏と星彩。
「…二人とも、何をしてたの?」
星彩の冷静な声色に心臓の鼓動がさらに加速する。
「べっ、別に何もっ!
さぁ〜温泉行ってこよ〜!
あっ、片付け片付けっ!」
「萌!
か、片付けは俺がするから、早く行ってこい!」
「ほ、本当?
ありがとう!
じゃ、よろしくっ!」
「い、いや…」
不思議な顔をする銀屏と星彩を後目に私はそそくさと部屋を出た。
……ぁービックリした。
あのまま、二人が入って来なかったら本当にキスしたのかな…。
まだドキドキしてる…。
私は煩く鳴り響く心臓を抱え、ゆっくりと温泉へ向かった。
「…兄上…
萌に何をしたの?」
「……な、何も…」
我が妹ながらこういうところの勘がいい。
怪訝な顔をする星彩に背を向け、夜空を見るフリをする。
さっきは危なかった。
もう少しで口付けをしてしまうところだった。
まだ好きだとつたえてもいないのに…。
俺、何考えてんだ…。
萌の身体に触れている事実と、彼女の声が重なって思わず口付けしたくなった。
まだ心臓の鼓動が速く動いて止まらない。
…やっぱり俺、萌が好きだ…。
異世界の人間だし、元の世界に戻ることが一番だとは思っている。
だけど、どんどん惹かれていく。
彼女の全てに。
いつか、いつか
この想いを伝えたい。
大好きだと…
ずっと傍にいてほしいと…。
未だ速く動く鼓動を感じながら張苞は夜空を見上げていた。
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