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「ぶっっ…!!」
関興の父親と言えば、凄い有名人。
物凄い迫力と、気高い立ち振る舞い。
その名を知らしめているほどの武人…。
そう、関羽さんだ。
そんな彼が改まって私に話した言葉で思わず飲んでいたお茶を噴いてしまった。
「ゲホッ…ゲホッ…!
い、今、何て仰いました?」
「うむ。
我が子、関興を萌殿の手で男にしてくれとお頼み申した」
…はぃ〜?
「あの…それはどういう…?」
「うむ…」
関羽さんはこの発言に至った経緯を順をおって丁寧に説明してくれた。
どうやら、この時代においてはもう立派な成人である関興が、未だお嫁さんをめとっていないという事実をお父さんとしては心配しているらしい。
そのため、関興に縁談をすすめたそうだが、即却下されたとのこと。
理由を問いただしても、本人は口を噤んだままだったため、兄弟妹達や関興と仲のよい仲間に話を聞いて回ったところ、生まれてこの方お付き合いしている女性もいなかったという事が発覚したそう…。
そしてその原因は私であるとのこと。
「関興は萌殿を好いている様ですな」
「えっ?
え〜っと…そうなんです…かね?」
確かにこの前、『愛してる』って言われたけど…それ以降別に普通に接してるし…。
恋人同士…なのかな…?
私達?
関興も私の気持ち確認してこないし…。
私も関興に気持ち伝えてないような。
改めて考えれば…何なんだろ?
今の私達の関係。
「萌殿はどのように思っておられるのだ?
失礼ながら、萌殿は関興より齢も上。
頼りなく思われておられるのではないか?」
「私は、その…。
関興の事を頼りないとは思っていません。
確かに最初は弟位に思ってましたけど、今は立派な男の人として尊敬しています」
「左様か…?
関興はあの様な性格のため、なかなか周りに理解されにくいのだ…」
「確かにポーッとしてる時もありますけど、私はそんな関興にいつも心が癒されます。
言葉数は少ないですけど、その分いつも大切な言葉を話してくれますし、見ていないようで周りの人をちゃんとしっかり観察していて、さり気なく気遣いできるところも尊敬してますし、嘘をつかない誠実なところも凄いと思いますし、いざっていうときに凄く男らしくて頼りになるところも…」
「…萌殿」
「はっ、はい?」
話している最中に関羽さんが私を止めた。
「萌殿が関興を大切に思っておられる心。
伝わり申した」
関羽さんは優しい顔で微笑んでいる。
「は、はい…」
ちょっと一生懸命に言い過ぎたかな。
お父さんの前で…。
何だか恥ずかしくなってきた…。
「申し訳ないが、初めて萌殿の話を聞いた時、父として納得出来なかった…」
「…そりゃそうですよね。
わかります…」
実際年齢は関興の方がかなり下だし。
この時代は結婚も早いけど、基本的に若い奥さん娶るらしいし。
私の年齢はこの時代、完全にお嫁に行き遅れたババァだ。
恐ろしいことに関羽の奥さんや張飛の奥さんとの方が年齢が近いという非常事態がおきている。
ということは、関興はお母さんの年齢よりちょっと下の友達とつき合うようなもの…。
それは、お父さんとしてはもっと若い普通の女の子と結婚してほしいよね。
こんなどこから来て、またいつどこへいくかもわからない、トリップしてきた年増の女より。
息子の一生を左右する事だもん。
「然し、萌殿と話して、拙者の心も固まり申した。
どうか、関興と一晩を共に過ごしてくれまいか?」
ええっ?
でもでも、それって所謂イコール…。
「あの…不躾ながら一晩というのは、男女のそうゆう事ですよね?」
「…うむ」
関羽さんは思いっきり、頷いて肯定した。
まさかあの歴史上超有名な関羽から、簡単に言えば『息子と夜一発やっちゃってくれんかね!』みたいな発言聞くとは思わなかった。
御武人だから、変に聞こえないけど結構凄い際どい事頼まれてるよね、私。
「あの、でもやっぱりこういうのは本人の気持ちを大切にされた方が…。
私は良くても関興が嫌かもしれませんし…」
「それは心配ない。
我が家族達もそう言っていた」
家族て…。
あの子たち、お父さんに何言ったの?
もうー…。
「萌殿」
関羽さんは私に正面から向かい合うとその大きな身体を折り曲げて、私にゆっくりと頭を下げた。
「関興をお願い致す」
超有名な武人が私に頭を下げている。
しかも、蜀の中でもナンバー2のお方がこんな私に。
関興ってお父さんに本当大事に想われてるんだね。
本当に幸せものな息子だ。
もうここまでされたら、うんとしか言えないよ。
「はい。
分かりました」
私の言葉に、安心した微笑みを浮かべる父親の顔を見て、ほのぼのとした気持ちになりながらも、これからどうしようかと言う一抹の不安も抱えていたのであった。
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