小説 | ナノ

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関羽邸の離れの屋敷。

今日の夜の舞台。


二人きりになれるように関羽さんが計らいをしてくれたのか、お手伝いさんも居ない。
本当にこの屋敷に二人きり。

私は明らかにこの時代の下着であろう着物を身にまとって寝台の上で彼を待っていた。


何かそわそわする…。
どう説明してあげたらいいんだろう。
即帰られたらどうしよう…。
色々な考えが押し寄せてくる中、足音が聞こえた。


来たっ!


ドアがゆっくりと開いて、関興が入ってきた。


「関興、いらっしゃ〜い…」


私は力なくひらひらと手を降った。


「………」


あ、入口でフリーズしてる。
さすがの関興も固まってる…。

そりゃそうよね。
経験がないって言っても、私の格好とこの如何にもって状況みたらある程度の予測つくよ。
頭のいい人だし…。
それに彼はこの部屋にお父さんがいると思って入ってきたのだから、驚くのは当然だ。



「…萌?
どうして?」


うん、君の疑問は最もだよ。


「あのね、順をおって説明するので、とりあえず私の横に座ってくれる?」


そう言って、私の隣をポンポンと叩いた。


「…うん」


関興はゆっくり私に近づいて、隣から少し離れたところに座った。


私はお父さんの関羽との会話の内容を順を追って説明していった。
何を考えているのかはわからないが、関興はとりあえず私の話を黙って聞いてくれていた。


「ごめんね、関興の気持ちも考えずに…。
だけど、関羽さんに頭下げられちゃったら断れなくてさ…」

「……」


無言の関興…。

きっ…気まずい…。


「あ!でも別に本当にそういうことしなくてもいいと思うんだよね!
二人しかいないし、もうやっちゃったよって事にするっていう手もあるし!」

「…それは、父上や皆に嘘をつくって事?」

「そ、そうなるよね…。
駄目か…。
じゃ、じゃあ。
最初の方だけでもする…?」

「…」


私の言葉に悲しそうな表情を浮かべる関興。


ああ〜ごめん〜っ!
何と失礼な事を。
パニックになって何を言ってるのよ、私は!


「いや、ダメだよね。
ダメだよね、そんな事!」


しばらく沈黙が続く。
この状態、何とかせねば…。


大体、私も少しは経験あるけど…全くナニが始めての男の人に手取り足取り教えられるような柄ではないのだ。
関羽さんはよろしく頼むって言ってたけど、一体何をどうしたらいいのかさっぱりだ。


手持ちぶさたになり、キョロキョロとあたりを見渡していると、用意してくれていたお酒と軽い食事が見えた。


「あ!何か美味しそうなお酒があるなぁ〜…。
一緒に飲まない?」

「私はいい」


横を見て話をふれば、即否定された。


ていうか、この部屋入ってきてから殆ど目を合わせてくれない。
いつもだったら、関興から視線を合わせてくれたり、スキンシップしてくれたりするのに…。
寝台に並んで横に座っている、この離れた距離が少し寂しい。


「私は飲もうかな…」


私はお酒を持ってきて、グイッと一思いに飲んだ。
瞬間ぐらりとする位のアルコールの匂いが鼻を突き抜ける。


何これ!
凄くキツいんだけど!


「うぇえ〜」

「大丈夫?」


変な声を出す私を心配したのか、関興と視線が合った。


「お酒…キツい…」

「それ…多分父上の好きなお酒だ。
萌には強すぎる。
やめた方がいい」


心配そうな顔をしている関興。
私何してるんだろ。
こんな純情な人つかまえて…。
愛してるって言われたからって、調子にのってたのかな…。


はぁ…。


私は関興に申し訳ない気持ちを紛らわそうと、もう一杯お酒をグイッと煽った。


「萌!」


関興の手が延びて、私の右手首を掴んだ。


また再度視線が絡む。
とても綺麗で澄んだ瞳…。
そう、この瞳大好き。
私を掴んでいる大きな掌も。全部。
なのに考えなしに行動して、彼に不快な思いをさせてしまった。


「…関興。
ごめんなさい、関興の気持ち全然考えてなくて。
私なんかとこんな風になるの嫌だよね。
もっと若くて綺麗な子の方が…」

「違う!」


真剣な表情で、急に大きな声を出した関興に私は驚いた。


「…私は父上に頼まれて、萌が嫌な気持ちになっているのではないかと思って…。
こんな大切な事、無理矢理了承させてしまって…ごめん」


俯きながら話す関興をじっと見つめる。


それは私が嫌ではないということ?
私が気持ち伝えてなかったから、不安だったのかな…?


「関興、私。
嫌々、了承した訳じゃないの…」


私は覚悟を決めて関興の瞳を見た。


「私、関興が好きなの。
もちろん男の人として…」


綺麗な瞳が見開いている。
かなり驚いているようだ。


「あ、あのだからね。
私としては関興とだったら、そういう男女の関係になっても…大丈夫っていうか…。
おかしいよね、こんなに年も離れてるのに。
自分でも本当可笑しいと思うよ…本当バカみたい…!?」


突然、関興が私の腰を引いて、次の瞬間抱き締められていた。


「萌。
嬉しい。
…私も同じ気持ちだから…」


そして、ぎゅっと更に強い力で抱き締められる。


両想いになるって、こんなに幸せな事だったんだ。
今まで付き合った人はいたけれど、こんなに幸せを感じただろうか。


私は暫くの間幸せに浸るように関興の胸に顔ををうずめていた。


***


結構時間が経過したが、私はまだ彼に抱き締められていた。
同時にさっきから髪を優しく撫でられている。
彼の大好きな掌に撫でられると安心するのと同時に気持ちが高まっていく。
それに、関興ってとてもいい匂いがする。
まるでこれは柔軟剤みたいなフローラルな香り。
この世界にはない筈なのに。
そういえば遺伝子的に合う男性からはいい香りがするらしい。
彼と遺伝子的にも相性が良いならとても嬉しい。
しかも今日は薄着のせいか…ダイレクトに彼の胸板の感覚が顔に伝わる。


けっ、結構がっちりしてるんだな…。
脱いだら凄そう。

………じゃなくて!
何考えてんの!私!
これじゃ、ただの変態じゃん…。


耳から聴こえる関興の心臓の音がとても早く動いてる。
前に言っていたけれど、私にドキドキしてくれているのだろうか。何だかそれを意識すると私まで急に恥ずかしくなってドキドキしてくる。


「関興の胸の音、すごいね‥」

「…うん。
萌に触れてるから…」

「私も…私も早く動いてるよ?」


私の言葉が意外だったのか、ゆっくりと関興が離れた。


「どうして?
萌は男の人と触れ合った事があるのに?」

「あるけど、好きな人に触れると緊張するよ」

「本当に?」


私は関興の左手を握り、彼の手を私の心臓の上にのせた。


「凄く早く動いてる…
私と同じだ…」

「ね?」


そう言って、微笑む私を見つめていたかと思うと、胸の上にのっていた関興の手がゆるりと私の首筋に移動した。
私の視線のすぐ先には吸い込まれそうな程綺麗な碧色の瞳。
まるで今だけ時間が止まったような…そんな感覚。
乙女漫画の出来事がこうも本当に訪れるとは。
相手が彼だからこそなのだろうが。


「関興…」


次の行動が何となく予測出来て、思わず緊張で身体が強張る。


「萌。
口付け…していい?」

「…うん」


ゆっくり近づいてくる関興の唇に胸が張り裂けそうになる。
こんな状態になったのなんてファーストキス以来だ。
なんて考えているうちに、関興の唇が私の唇にそっと触れた。
触れた側から今度はついばむようなキス。
何だか可愛いと思っていたのも束の間、突然激しいキスに変わった。
急に始まった深いキスに頭が対応出来ない。
息をする事もままならないキスに頭が真っ白になる。


「かんこ…っ、ふっ…あっ…」


舌と舌が絡まりあう事が、とても甘美で気持ちがいい。
まるで、口の中がとろけそうなぐらい。
キスってこんなに気持ちがいいものだったの…?
ぼーっとする頭でそんな事を考えていると、関興の唇がゆっくり離れた。


「…あ…」


唇が離れて、寂しく感じた。


「大丈夫?
気持ち、抑えられなくて…」


心配そうに私の顔を覗き込む関興。


……ていうか、キミ。
本当に始めてなの?
歴代彼氏より、断然上手いよ。
キス。


キスで停止状態になっている頭で、疑り深くじっと関興を見つめれば不思議そうな顔で見返してくる。
さっきの男の人の顔じゃなくて、今度は可愛いらしい顔で。


「萌、平気?」


平気です。
平気ですけど…。

もっと…。

もっと…。


「…もっとして欲しい…」


その一言で、私は寝台にゆっくりと押し倒された。


長い夜が始まる。


甘くて、切なくて幸せな時間が。


私はそう思いながら、また男の人の顔に戻った関興を見上げた。


***


窓から差し込む光に何となく目を覚ましてしまった。


ふと感じる人の温もりに隣をみると、私の腰に力なく腕を回して、愛する人がスヤスヤと眠っている。

昨日の夜の情事の激しさを物語るように下腹部に鈍痛は感じるし、身体全体が鉛のように重い。
だけど不思議と、とても満たされている。
心も身体も。


情事の最中に見せていた大人の男の人の顔と正反対の少年のようなあどけない可愛い寝顔をじっと見つめていると、言いようのない幸せを感じる。


…綺麗な顔。
睫毛長いし。
肌もツヤツヤ〜…。


指先でそっと関興の頬をなぞると、少し瞼が揺れた。


思えばこんな可愛い顔して眠っている人に抱かれるなんて予想外だ。
こんなに可愛い綺麗な顔してるのに、すごく体格は男らしくて…。
蜀の武将の中では線が細そうに見えるのに腹筋なんてすごく割れてたし。
本当に私の弛んだ身体が申し訳なくてしょうがない。

落ち着いていて、マイペースな普段の彼とは全く違う激しく情熱的な行為だった。
まるで、心の奥に秘めていた気持ちを全部私にぶつけるみたいに。

お陰で私の身体は力が入らず、節々が痛い。
只でさえ、ひさびさだったんだもん。
無理もない。

若いって素晴らしい…。
最後の方なんて、気持ち良すぎて泣いてた記憶しか残ってない。


「私の身体、ボロボロだぞ〜‥」


動かそうとすると、ピキピキ痛みが走る身体が可笑しくて、クスクス笑いながら、ツンッと関興の長い整った鼻を軽くつつくと、ゆっくり瞼が開いた。


恥ずかしそうに申し訳なさそうに私を見つめる関興。


…かわいい…。


「昨日はごめん。
優しくしようと思ってたのに…。
萌の声聴いてたら止まらなくなった。
身体…大丈夫?」


大きな手で私の頬を撫でる。
触れられると心が温かくなる。


「ちょっと筋肉痛だけど、大丈夫」


微笑む私に関興も微笑んだかと思うと、そっと優しい唇が触れた。


昨日は何度この唇を合わせただろう。
今思い出すと、かなり恥ずかしい。

私…関興といわゆる、一線を超えちゃったんだな。
現実世界から、無双の世界にトリップしてきて、まさかこんな結末に落ち着こうとは思いもしなかった。
本当運命的としか言いようがない。


「どうしたの?」


ぼーっとしている私を不思議に思ったらしい。


「ねぇ、赤い糸って知ってる?」

「ううん…」

「私の世界ではね、男女の間で運命で決められた出逢いの事を赤い糸に例えるの。
赤い糸って見えないんだけど、小指と小指で繋がっててね…」

「…小指?」

「そう。
私、何故かわからないけどこの世界に落ちてきて、たまたま劉備様にお世話になるようになって…関興に出会って恋に落ちた。
それで、今こうやって私の一番近くにいてくれてるじゃない?
だから、私の小指の運命の赤い糸はきっと関興に繋がっていたんだなぁって思って。
そう考えると、突然この世界に落ちてきたことも、蜀でお世話になるようになったのも、全部関興に繋がっていた気がするなって…」

「………」

「…私の勘違いかもしれないけどね?」


何だか言ってるそばから恥ずかしくなって悪戯っぽく微笑むと、関興がゆっくり首をふった。


「…私は萌の赤い糸、信じる。
きっと萌と私の出会いは運命だったんだ…」

「うん…。
関興。
私、あなたと出逢えて幸せだよ。
とっても、とっても」


私の言葉に綺麗な瞳が少し見開いた後、端正な顔がとても幸せそうにふわりと微笑んだ。


「私も…幸せ。
ずっと、愛してるよ。
萌だけを、ずっと…」


そう言って、関興は私の身体をぎゅっと抱き締めた。


お互いの肌が重なり合って、心も身体も関興とひとつに交わっているようであたたかい。


私は関興の背に手を廻し、彼に身体預けた。


運命なんて言葉嫌いだった。
自分の未来を決めつけられてるみたいで。
だけど、関興との出会いは運命だったと信じたい。
出会うべくして出会ったと…。
惹かれるべくして惹かれたと…。


***


彼女と心も身体も通じ合えた。
ずっと好きだった人と。


彼女の声を聴く度、彼女の肌に触れる度に情欲のような激しい衝動を覚えた。
彼女を求めて止まらない。
恋しくて…愛しくて。


運命の赤い糸はきっとこれからもずっと切れることはないだろう。

私はこれからもずっと貴女を愛しているから。

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