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 私が生まれ育った村では何でもボール一つで解決していた、それはこの時代でも同じことらしい

 天馬くんと特訓をしていたシュウが戻ってきたと思ったら腕を掴まれどこかへ歩き出した、シュウと再会した時と同じ展開だ
 やはり着いた場所は村があった場所で、私の腕を開放したシュウは俯いていて表情が伺えない
 はてどうしたものかとシュウを見詰めているとゆっくりと顔を上げた、やっと見れたシュウの顔は今にも泣きそうだった

「……ナマエはさ、僕があの試合を金で買おうとしたことを、」
「……知ってるよ」

 そのことは村中で話題となり私の耳のも当然入っていた、だからといって私は彼を恨むことはしなかった
 村の繁栄の為ならば村娘一人の命を軽々と投げ捨てる奴らに、私はいつしか愛想を尽かしていた
 だから私がその生贄に選ばれた時、人柱として死ぬこともやぶさかではないと思い、なにかしらの運命すらも感じていたのだ

 けれど結果として彼の妹が生贄となってしまった
 あの子は兄や両親だけではなく友人たちからも望まれたのにも関わらず生き残ったのは私だった、誰にも望まれずいきる意味すら見えなくなっていた私がだ

「知ってるのなら何で僕を責めないの?」
「……責める必要がないから」

 兄が実の妹を救おうとするのはごく自然のことだよ、ただその形が悪かっただけで、だから私がシュウに恨むのも感謝することもどちらもお門違いなのだ
 私の言葉を聞いたシュウの瞳から涙がこぼれた刹那、私はシュウの腕の中にいた、死んでいるはずの身体は温かく私の冷め切った心を包んでゆく

「ナマエごめん、もう少しこうさせて」
「うん、いいよ」

 じわりと肩が湿っていくのを感じながら小さい子供のように嗚咽を漏らすシュウをあやすよう、背中を優しく撫でてあげれば少しずつと呼吸が整っていく

 シュウは私が生贄として海に流されそのまま死に逝ったことを知らないだろう
 彼の妹が生贄になった後も日照りが続き、不当な結果で選抜された生贄ではいけなかったのだと私が生贄にされたのは彼が処罰を受けて村を追放された後の出来事だった
 きっとこの話をすれば彼はさらに悲しむだろう、村を追放されてまで守ろうとした妹が無駄死にしたのだから
 時には真実を知らないほうが幸せであることもある、だからこそ私がそのことをシュウに伝えることはこの先も訪れないだろう

「(シュウ、ごめんね)」


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