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 風丸くんがキャラバンを降りたと聞いてから円堂くんからは元気がなくなり、屋上の隅で一人黄昏る毎日になってしまった
 風丸くんは円堂くんにとって特別思い入れのある部員だったみたいで秋ちゃんにその話を聞かされたとき、私たちは何も出来ないのだと思い知らされた
 でも私はそれどころではなくて、士郎のことしか頭にはなく練習どころではなかった、それがみんなにも伝わっているらしく吹雪に付いていててやってくれと言われた
 精神的にも年齢的にも私の方が上で、公私の混同はよくないと言うことは理解しているつもりだったけれど士郎に関してだけは無理だった、私の心を乱すほど士郎は私の中心になっていたのだ
 ベッド脇の椅子に座り未だ眠ったままの士郎を見詰める、汗で張り付いた髪を退かしタオルで汗を拭う
 このまま士郎までもが私の前から消えたら、なんて悪い方へと考えてしまいタオルを持つ手が震える、一人は嫌よ

「……ねえ士郎、覚えてる? 私たちが小さかった頃士郎の家にお泊りしたときのこと、士郎と敦也、どっちのベッドで私が寝るかってケンカして、結局布団を引いて三人で寝たのよね」

 当然士郎は聞いているはずもなく、私はただ寂しさを紛らわせるように思い出話を淡々と語った、病室には私一人の声が寂しく響く
 小さい頃は士郎と敦也と三人でサッカーやスノーボードをしているだけで楽しかった、なのに雪崩で大切なものを失って、士郎は十分頑張ったよ
 だからもう無理しないで、士郎が辛い顔してると私も辛いよ、どんなにアツヤを作っても自分を苦しめるだけだと気づいて

 額に浮かぶ汗を拭えば不意に扉がノックされ瞳子さんが中に入ってきた、私がいることを知ってもなお瞳子さんは寝ている士郎の横に立ちじっと士郎を見詰めた

「吹雪くん、」

 士郎を見る瞳子さんの目はまるで宇宙人を演じているあの子たちを見ているようだった
 士郎を見て私に視線を移す、それから再び士郎に目線を戻して口を開いた

「それでも私はあなたを試合で使うつもりよ」

 これは士郎だけじゃない、私にも向けられた言葉なんだと分かった、私は戦うと決めた、あの子達が宇宙人なんて馬鹿げたことを言わなくなるまで、士郎が完璧という言葉の本当の意味を知るまで
 私たちから視線を逸らした瞳子さんはそのまま何も言わず病室を後にした、ちらりと見えたその瞳は決意が見えた


「っ、ぼくはアツヤじゃない!」
「士郎!」

 叫びながら起き上がる士郎に目を丸くしていると士郎は肩で息をしながら私を見つけた、士郎はアツヤじゃない、士郎は士郎よ
 私の名前を弱々しく呟いた士郎の手が私を求めるように伸びたのでその手を握れば小さく震えていて、士郎の不安が伝わってきた

「ナマエ、僕は士郎だよね、アツヤじゃないよね……?」
「士郎は士郎だよ」

 椅子から立ち上がって士郎を力の限り抱き締める、いつも見てきた士郎はこんなにも小さかっただろうか
 敦也はもういないんだよ、アツヤは士郎の作り出したただの人格に過ぎないの、早くそれに気付いて、士郎は一人じゃないよ



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