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「木暮のやつ、親に裏切られたことがありまして……」

 あっさりと木暮くんの過去を言ってしまった彼に私は少なからず苛立ちを覚えた
 他人の過去をそう簡単に口にしていいものではない、ましては親に裏切られた、捨てられた、という誰に知られたくないであろう過去を他人にあっさりといってしまうのはデリカシーに欠ける
 この人たちは本当に精神を鍛えているのかしら、木暮くんがひねくれてしまうのも無理もないわ

「ナマエ、大丈夫?」
「え、あ、大丈夫よ、私は」

 過去を知られなくないのは私も士郎も一緒で、私が苛立っているのが分かってしまったらしく遠まわしに宥められてしまった、本当、士郎には敵わないわね


 結局この日は木暮くんのことが気になって眠れなかったので外をうろうろしていたら道場のほうから物音がしたので行ってみれば木暮くんがたらいを持って何かをしていた

「木暮くん……?」
「うわっ!……なんだ、お前かよ」
「そこで何してるの?」
「な、何だっていいだろ! あっち行けよ!」

 あからさまに邪険にしてくる木暮くん、母親に裏切られて他人を信じられなくなった彼はきっと再び裏切られるのを恐れて、無意識のうちに他人と距離をとってしまっているのだろう
 私はあなたの味方よ、そう言ってあげたいけれどきっとそれは意味を成さない、今日出会った人間に味方なんて言われてすんなり信じられるなんて相当なお人好しか馬鹿よ
 私は何も言わず木暮くんの前に膝を付いて彼を抱き寄せ、そのまま腕の中へと納めた
 最初こそ抵抗していた木暮くんだったがだんだんとその抵抗もなくなってきて、仕舞いには私の腕の中で大人しくなった
 木暮くんは一人じゃない、みんなが、私が付いてるよ、そういた意味を込めてただ抱きしめた

「なんだか母ちゃんみたいだ」
「……違うよ、私は木暮くんのお母さんじゃない、だって私は木暮くんを裏切ったりしないもの」

 ごめんね、木暮くんの過去、聞いちゃったの、そう言ってやればビクリと肩を揺らして私を見詰めた、目には恐怖と怯えが見える

「……私もね、親に捨てられたの」
「えっ……」
「私ってちょっと変わった子でね、気持ち悪いって捨てられて、孤児院に入ったの」
「辛く、なかったのかよ……」
「辛かったよ、辛くて、苦しくて、何で私がって何度も泣いた……、でもね、そこで沢山友達ができたの、それから私を引き取ってくれた新しい親も、だから今はもういいの」
「そんな簡単に許せるのかよ!」
「許せないよ、でもあそこで私が捨てられていなかったら今の私はいないし、木暮くんとも出会ってなかったと思うから」

 それだけ言ったところで彼の大きな目から涙が零れた、私の胸元がじわりじわりと濡れていくのが分かる、優しく頭を撫でてやれば嗚咽が漏れた
 私は木暮くんに本音を話した、後半は士郎にも言ったことのない本音だ
 実の両親に捨てられて悲しかったし辛かった、だけどお日さま園で晴矢や風介、それにリュウジや茂人たちみんなに出会えて良かったと思っている
 それにお義父さんとお義母さんに引き取ってもらえなかったら士郎とアツヤとも出会えていなかったから
 そう言った意味では感謝すらしている、私のことを捨ててもちゃんと弟を育ててくれていると思うし

 しばらくして木暮くんが静かになったと思ったら私の腕の中ですやすやと眠っていた、子供は心臓の音を聞いていると安心して眠れるのよね
 とりあえずこのまま放置しておくわけにもいかないのでテントから私の寝袋を持ち出して木暮くんと一緒に道場の中で眠ることにした


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