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「名前、晴矢が寝た」

 風介の発言にソファーを見やればだらしなく足を広げて風介の肩に頭を預ける私の姿があった、っていうかアイスでかっ
 今日は色々とあったのできっと疲れたのだろうと返せばヒロトがその話に食いついてきて、何々、と興味津々に目を輝かせている
 買ってきたものを丁度仕舞い終わったので寝ている晴矢を起こさないようにベッドまで移動させ、私はソファーに、ヒロトはソファーを背にカーペットに座れば今日の出来事の報告会が始まった
 午前中に卵争奪戦をしたとか、午後から晴矢に例のものを買わせに行かせただとか、あと椿に会った話もしたが、最後の話の時にはヒロトも風介もあからさまに顔をしかめたので晴矢と同じで二人も相当椿のことが嫌いなのだろう、まあ椿もこの三人は嫌いだと豪語していたのでお互い様だ
 ふとテレビを見ればよくわからない映画がクライマックスを迎えていた、そういえばヒロトが真剣に観ていたな

「ねえヒロト、この映画面白いの?」
「ああ、『キスへのプレリュード』っていう映画らしいけどよくわかんないや、面白いと言えば面白いけど」
「ふーん」
「キスをしたら人格が入れ替わっちゃうなんて誰かさんたちみたいじゃない?」

 くすりと笑ったヒロトに私は目を見開く、どうやらこの映画は精神が入れ替わっててんやわんやする話みたいだ、本当に今の私たちと同じように話だな
 思い起こしてみれば入れ替わってから私と晴矢は性行為はしたがキスはまったくしていなかった
 そうか、キスか、手段の一つとしてやっておくのもいいかもしれない、

「じゃ、俺たちはお暇しようかな、行くよ風介」
「うむ、また夕飯の時に来る」
「今日は色々とありがとね」

 ぱたりと扉が閉まり室内にはテレビの音しか聞こえない、いつの間にか映画は終わっていて健康食品のコマーシャルをやっている
 テレビを消して寝室に入れば私の姿をした晴矢がこれでもかというほど熟睡していて、それを見ている私も眠くなってきた
 キス、か、さっきは手段の一つと言っていたけどなんか改まって考えると恥ずかしいな
 寝ている晴矢に覆い被さるように両手両膝をベッドに乗せて晴矢の顔を覗く、客観的に見る私の顔ってこんなんなんだ
 晴矢が入ってからリップクリームなんて一切塗っていなかったそれは表面が乾燥している気がする、晴矢が起きたら塗ってあげなきゃな、と考えていたら晴矢が唸って目を開いた

「ん、名前……?」
「あ、起こしちゃった?」
「んー、まだねみぃ」
「!」

 そう呟くと私の背中と頭に腕を回して引き寄せられる、そしてそのまま私の唇は晴矢のそれと重なった、やっぱり乾燥してる
 いつもみたいにこういう晴矢からのキスは好き、私の姿をしていてもやっぱり晴矢なんだなって嬉しくなって晴矢に抱かれたまま瞼を閉じた


愛しのあの子


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