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 それなりに財を成しているとはいえサーヴァントを住まわせてもらっている身の上、両親からの“ヒーローになって欲しい”という期待を裏切れる程ナマエは親不孝者ではない。数年前は八百万百の眩しさにヒーローに成ることを躊躇したが、元より人生に於いてこれといった目標はなく将来設計も曖昧である。
 ヒーロー科に入学したからと言って必ずしもヒーローになる必要もない。ともあれ受験先は日本における最高峰である国立雄英高校のヒーロー科を受験。
 人生××回目ともなれば学年主席は当たり前であり雄英高校の推薦入試も余裕で取れる、しかしそれではフェアじゃあない。特に学力に関してはナマエにとって狡をしているような感覚にも近く、他の受験生に申し訳ない気持ちになってしまう。ナマエは妙なところで律儀であった。
 両親には実力でヒーロー科に合格したいと、それなりの理由を繕ってやればあっさりと納得してくれ、うっとおしいくらいに応援もしてくれた。

 そうして受験当日。
 霊体のサーヴァントを連れ立って実技試験が行われる演習場前に立つナマエ。天草が付き添いたがっていたが保有スキルとナマエに何かあって直ぐに駆け付けられる俊敏値の高さでランサーのクー・フーリンが選ばれた。その実は彼がじゃんけんで勝っただけだが。
 試験内容がどのようなものであれクランの猛犬である彼ならば臨機応変に対応出来るだろうと踏んで、実際に説明されたものは複数の機械相手の市街戦。一騎打ちが好きだという彼の性能とは裏腹にその真価は合戦だと発揮されやすい。

『はいスタート!……実践じゃあカウントなんてないのよ。ほらさっさといきなさい』

 この会場の監督官であるミッドナイトの言葉に受験生たちが演習場へ飛び込んでいく。勿論ナマエもその中の一人だ。
 マスターに合わせて走っていたクー・フーリンが霊体化を解くと周りにいた受験生に動揺が広がる。けれどもナマエらはそんなことこれっぽっちも気にしない。ただ目の前の仮想敵しか見えていない。

「クー。思う存分暴れてちょうだい」
「おう!」

 そこからはまさに無双状態であった。
 派手に壊せば壊すほど仮想敵の標的となりそれらを更に壊すことの繰り返し。サーヴァントたる彼には物足りない相手だが体を動かせるに越したことはない。
 ナマエに近づこうものならどんなに距離が開いていても瞬時に駆けつけて一突きで壊していく。影に潜めたアヴェンジャーの出番はなさそうだ。

 暴れまわる使い魔を横目にナマエは少し離れた場所で怪我人の手当に専念していた。

「……はい。応急処置程度だからあまり激しく動いちゃ駄目よ」
「ありがとうな!」

 たった十分の試験でこれ程に怪我人が出るかと、しかしそれ位に雄英高校ヒーロー科に対する熱情は凄まじいということか。
 臓器移植可能レベルの高度な治癒魔術を持っているナマエの処置は瞬く間に傷を癒やし損傷を修復する。応急処置程度の治癒だがその速さは周りの受験生たちにも目立っているようで、気付けば彼女の周りには怪我人が集まっており一種の救護所になっていた。

「……敵に塩を送るなんてどうかしてるんじゃないかい」
「あら。人助けもヒーローの務めでしょ?」
「詭弁だね」
「確かにそうかもね。はい終わり。頑張ってね」
「助けてくれた事には礼を言うけど最後の言葉はそっくり君に返すよ」
「ふふっ。運が良ければヒーロー科の教室で会いましょう」

 金髪少年の嫌味もさらりと躱し、ひらひらと手を振り見送る。他の受験生にも似たような事を言われたがポイントは使い魔が稼いでくれているのでナマエに痛手はない。



「さてと、そろそろ救護班ごっこは止めにしないとね」

 ナマエが重い腰を上げたのは制限時間も終わりに近づいてきた頃だった。

「クー、久しぶりに体を動かしてみてどうだった?」
「全っ然物足りねぇ」
「うふふっ。ゼロポイント仮想敵でも出てきたら少しは満足出来るかもしれないわね」
「あーもう何でもいいから手応えのある奴出てこいや!」

 噂をすれば何とやら。二人の会話を聞いていたかのような絶妙なタイミングで巨大なゼロポイント仮想敵が現れた。
 その大きさと厄介さに受験生たちは逃げ始めるが全員が全員逃げ切れるかと言えばそうではない。巨体の進行方向には逃げ遅れた者が数人、このままでは彼らに危害が及ぶ。
 そう考えたら、ナマエは令呪を発動させていた。

「宝具解放!」

 左眼に刻まれた令呪から一画分の魔力が彼に注がれる。刹那、クランの猛犬がにやりと笑った。

「その心臓貰い受けるーー! “刺し穿つ死棘の槍ゲイ・ボルク”!!』

 機械に心臓がないことは置いておいて。クー・フーリンが放った宝具は真っ直ぐにゼロポイント仮想敵を貫いた。

 破壊された巨体の破片が四方に飛び散るも、どこからか飛んできた矢が人に当たる前に撃ち落としていた。
 ナマエが発射方向を見やれば心配性な守護者がビルの上に立っており、己のマスターと目が合ってようやく彼女の下に降り立つ。

「し……アーチャー!」
「てめぇ勝手に何しやがんだ!」
「いやなに、ランサーだけでは心配だったのでね。やはり付いてきて正解だったようだ」
「俺だってあれくらい落とせた!」
「はっ。どうだかな」
「てめぇ……!」
「あーもー、二人ともうるさい! 喧嘩なら帰ってからして!」

 彼らの仲の悪さは何度座に還っても変わることはないらしい。見慣れたやり取りにナマエはやはり天草を連れてくるべきだったのではと遠い目で二人を見ていた。
 オレもいるんだけどなぁと思いつつも己の弱さを自覚しているアヴェンジャーは、彼らの喧嘩に巻き込まれぬよう大人しくナマエの影の中で息を潜めた。

[05]犬も食わない