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「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

 その日のヒーロー基礎学の始めに相澤から口頭での説明を受けるA組一同。なった、という言葉尻からナマエは先日の侵入者騒動を思い起し、それに関連しているのだろうと隣で壁に寄りかかって眺めている天草を一瞥する。
 あの後の天草は一言でいうと面倒くさかった。侵入者の“個性”考察に始まり他のサーヴァントを誘っての夜通しの訓練。今や別宅において彼が戦い向きではないサーヴァントという認識は誰にもない。最も、第三次聖杯戦争を彼と共に生きていたナマエは最初からそんな認識は持っていないのだが。
 因みに本来今日のサーヴァントは天草ではなくエミヤであり、天草は啓示があったのでどうしてもと半ば無理やり付いてきたのである。
 閑話休題。侵入者に関してはわざわざ知らせることも無いと生徒らには伏せられているため急遽予定を変更したことはナマエ以外知らず、大人しく担任の話に耳を傾けている。

「災害水害なんでもござれ、人命救助レスキュー訓練だ」

 相澤が掲げたプレートにはRESCUEの文字。
 ヒーローコスチュームの着用については活動を制限するものもあるだろうから各自の判断に任せ、訓練場まではバスに乗る旨を伝えると早々に相澤は教室から出ていく。
 ナマエのは“個性”とは全くと言っていい程関係のないコスチュームなのだがクラスのほぼ全員がヒーロー服の入った箱を手に取っているを見て、訓練と言えど本番と同じようにするのが最適解だと21番の箱に手を伸ばした。


 バスは出席番号順に座ろうと統率する飯田委員長の気合も虚しく最前列の教員用の前向きシート一列を除き、前列に対面の横向きシート、後列は通常の前向きシートという混合タイプのバスであった。結局出席番号に拘らず座席に着くこととなり、ナマエは轟の隣に腰を落ち着ける。
 飯田が全員乗車しているかを確認するとバスは動き出す。バスの揺れに眠気を引き出されたナマエが小さく欠伸を噛み殺していたのを、隣に座る轟は見逃さなかった。

「ふぁ……」
「眠たそうだな」
「やだ、見てたの? 恥ずかしい……」
「……昨日寝れなかったのか?」

 羞恥に染まる頬を押さえる彼女にときめきを感じつつそれを悟られぬよう平静を装う轟。前方の席では各々の“個性”について話しているが今はナマエの言葉に集中したい。

「ええ、ランサーが寝かせてくれなくて」

「……は?」思わず声が漏れる。

「嫌って言ってるのに朝方までやらされちゃって……」
「は、え……無理やり……?」
「無理やりも無理やり。途中から他のサーヴァントも混ざって来たからもう大変」
「ふ、複数……!?」
「まぁ最後は私も意地があるからその場にいた全員相手したけど、それが良くなかったみたい」
「……」
「結局婦長に怒られてようやく寝れたのよ」

 ナマエが話し終えた時には周りの目、周囲に座っている生徒だけではなく前方で“個性”について話していた者も、話を中断してまで彼女の言葉に聞き入っていた。
 そんなに大きな声で喋っていたつもりはないのに何故か注目されている現状に首を傾げるナマエ。

「……? みんなどうしたの?」
「ナマエって大人っぽいと思ってたけどやっぱり大人だったんだね……」
「けしからん! もっと詳しく聞かせてください!」

 顔を真っ赤に染め気まずさに耐えられず俯く女子。同じく顔を染め俯きはしないが一様に口を紡ぐ男子。興奮する峰田。轟に至っては軽く放心状態で、無理やり、複数、とうわ言のように繰り返している。
 大人しく見ていた天草が失笑して霊体化を解いてしまうくらいには面白い状況が出来上がっていた。

「くっ、くくっ、あは、ははは!」
「時貞まで……ちょっと、もう何なの!?」
「ふだ、ははっ……マスター、みんなは口にするのも憚られることをしたものと勘違いしているようですよ」

 さすが思春期ですね。悪戯っぽい天草の言葉に意味を理解すると、今度はナマエが顔に熱を集める番となる。

「え!? やだ、違うの! 花札よ花札!」
「へ……花札?」
「そうなの!」

 あられもない勘違いを必死に訂正するナマエの声は大きく、当然静まっていた車内によく響いた。
 ナマエ自身猥談に抵抗があるというわけではなく寧ろ魔術師としての人生が長かった彼女にとって性的行為は手っ取り早い魔力供給の方法としての認識の方が強くその手の話題には割と寛容な方なのだが今回は状況が異なる。
 寛容とはいっても自ら猥談をするタイプではなく、また×回目の人生とはいえ女子高生という立場にあるため予期せぬ下ネタには耐性がないのだ。

「花札……そうか……花札か……」

 我に返りようやく胸を撫で下ろせた轟に続くように顔を赤くしていたクラスメイトらも徐々に落ち着いていく。一部で残念がっている者もいるが今のナマエの目の端にも留まらない。

「あーもう恥ずかしい……」

 前方が元の話題に戻ったのを確認して、ようやくナマエも落ち着くことが出来た。お疲れ様です、天草の言葉にナマエはぎゅっと目を瞑り火照る頬を誤魔化すように両手で押さえて溜息を一つ。
 普段は余裕を見せる彼女の、羞恥に取り乱す姿は新鮮で轟はまた一つと胸を高鳴らせる。

「それもこれもランサーが花札を始めたのがいけないのよ」
「最後はマスターもノリノリでこいこいしてたくせに」
「あれは……終わらせるためにやってただけよ!」
「……ナマエって花札強いのか?」
「まぁうちの中ではそれなりに強い方かしら……焦凍も花札やるの?」
「いや、俺はやったことねぇからどんなものか気になっただけで……」
「じゃあ今度うちに来た時教えるからやってみない? 面白いわよ」
「いいのか?」
「勿論!」

 思い掛けない彼女の提案に轟の表情がぱっと明るくなる。“個性”が発現してからは父に厳しくされていたので彼には凡そ幼少期に誰かと遊んだ記憶なんて数えるほどもなく、こうして誰かと遊ぶ約束をするだけでも心が弾むようだ。相手がナマエだからというのもあるが、これが他の誰かであっても純粋に喜ばしく思えるのだろう。他のクラスより数倍忙しいヒーロー科の学校生活の中で彼女だけではなく他のクラスメイトとも仲良くなれればと密かに期待を募らせた。

「派手で強えっつったらやっぱりファミリーネームと轟と爆豪だな」
「ナマエちゃんは綺麗だし愛想も良いから頷けるけど爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「ンだとコラ出すわ!!」
「ホラ」

 ぎゃんぎゃんと騒がしくなる車内。前方の喧騒を他所に轟が視線を外にやれば林の向こうに目的地であろう建物の頭が見えた。

「お前ら静かにしろ。もうすぐ着くぞ」

 まさに鶴の一声。見かねた相澤の言葉に騒いでいた生徒は口を噤み、来たる救助訓練授業に気を向ける。この後、天草が今朝に受けた啓示の意味を知ることになるとは誰も気付かず、バスは徐々にスピードを落としていく。

[14]とびだせ! 勘違い車内道中記