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 全ての授業が終わった放課後、切島が先だってヒーロー基礎学の反省会をしようと声をかけて回っていて、当然ナマエの下にも声をかけに来たがその前に轟が彼女に声をかけていた。
 切島らの反省会に参加すれば“個性”について根掘り葉掘り尋ねられるのは目に見えていたため轟から声を掛けられたのはナマエにとって都合が良かった。

「ナマエ、一緒に帰ろう」
「ええ、勿論。と言いたいんだけれど……その前に緑谷君のところに寄ってもいい?」
「緑谷? 構わねぇけど、どうしたんだ……?」
「ちょっとね」

 話している二人に遠慮しているうちに二人はスクールカバンを持って教室を出ていってしまったので、切島はターゲットを黙って帰宅しようとする爆豪に変えることにした。



 しばらくして保健室の文字が視認できるくらいに近付いた所で、タイミング良くヒーロー服姿の緑谷が腕を吊られた状態で出てきた。

「いたいた、緑谷君」
「え……あ、ファミリーネームさんに轟君!?」
「ナマエでいいのよ。それより、やっぱりリカバリーガールはこれ以上は治してくれなかったのね」
「え、あ、ああ。これは僕の体力的なアレで……って“やっぱり”?」
「確か彼女の“個性”は患者の治癒能力を高めるだけだったはずだから。貴方の負傷状態を考えたらそうかなって」

 本当は霊体化した天草に彼の様子を見てくるように頼み怪我が完治してないことを知ったのだが、それを話すと彼の性格上徹底的に疑問をぶつけてくるのは目に見えていたので適当に受け答える。
 痛々しい見た目の緑谷に轟も大丈夫かと声をかける。明日またリカバリーガールに治してもらうよとはにかむ彼にナマエが一歩踏み出す。

「腕、みせて」
「へ、あっ!? な、なにを……!」

 吊られている腕に躊躇なく手を添えたナマエは右腕に張り巡らされた魔術刻印に魔力を通す。
 魔術刻印とはそれ自体に魔術式が刻まれており魔力を通すだけで定められた魔術が扱える新たな臓器のようなものであり、魔術師の家系が代々継いでゆくその家宝とも言える代物だ。
 ナマエはこれを複数所有しておりそのうちの一つにアインツベルン由来の高度な治癒魔術がある。
 ギプス越しとはいえ女子からのボディタッチに緑谷がどぎまぎしていると触れられた部分から温かくなっていくのが分かった。ぬるま湯に浸けられているような、それでいて心地の良い感覚。
 それから一分もせずに緑谷の腕は感覚を取り戻し、ギプスの中で手を握って開いて握ってと繰り返しても痛まないことにしっかりとした確信を得る。彼の腕は完治していた。

「あ、ありがとう!」
「気にしないで。せめて、目の前の人くらいは助けたいなって思ってるだけだから」
「すごく立派な考えだと思うよ……それにしても凄いね! これがファミリーネームさんの“個性”なの!?」
「ええ。といっても“治癒魔術”っていう、まぁ“個性”魔術師の一部って感じかしら」

 ナマエの模擬戦闘時には既に保健室にいた緑谷は、オールマイトから講評と共にクラスメイトの“個性”を粗方聞かされていたとは言えこうして間近に、ましては体感するなど滅多にない。元々メディア露出の激しい彼女の父親の“個性”にも興味が尽きなかったが、彼女自身の“個性”は更に探究心がうずく。
 ヒーローオタクの彼としては是非とも追究したい所であったが、言葉を発するよりも早く、彼の興奮を察したナマエが先手を打っていた。

「それより、もうショートホームルームも終わってるし早く教室に戻った方がいいんじゃない? 服も着替えてないんだし」
「ああっ、そうだった! 僕かっちゃんに言わなきゃいけないことが……!」
「爆豪ならさっき教室を出てくとこだったから急げばまだ間に合うんじゃねえか?」
「それ本当!? 轟君!」
「ああ」

 ありがとう、ファミリーネームさんも本当にありがとう。律儀な彼は矢継ぎ早にそう付け足すとナマエたちが今しがた歩いてきた廊下を駆けていった。

「さ、焦凍。帰りましょ」

 ナマエの一言で二人は再び足を動かし玄関へと向かう。

「それにしても治療も出来るなんて正直驚いた」
「ふふ、魔術って複雑だけれど結構利便性高いのよ。焦凍も怪我したら私に言ってね、すぐに治すから」
「そうする、けどナマエに頼りすぎんのも格好つかねぇから、強くならねぇとな」

 今日の戦闘訓練で実力差がはっきりとした。経験を積んで強くなっていかねば。彼女を護るとまではいかなくともせめてナマエの隣で戦えるように。母の“個性”のみで立派なヒーローとなり父親を超えるという目標に、もう一つ新たな目標が追加された。
 それにナマエのことをもっと知りたい。再会出来なかった数年間彼女のことを忘れた日はない、だからこそあの数年が惜しい。
 訓練なら付き合うわよ、と微笑むナマエを見て轟はふと思い出すことがあった。

「そういえば士郎お兄さんは元気なのか?」
「士郎? ええ、変わらず元気よ」
『こっちのシロウお兄さんも元気ですよ』
「……そうだわ、士郎の料理はすごく美味しいから今度ぜひ食べに来て」
「……いいのか?」
『無視は良くないですね』
「勿論。きっと士郎も喜ぶわ」
『シロウおにーさんは悲しいです……』

「もう! シロウ違いよ!」
「! いきなりどうした?」

 何とかして会話に割り込もうとしてくる天草を終には無視できず轟を挟んで向こう側にいる彼にツッコミを入れてしまった。轟にとっては何もない空間であるため始めは自分に言われたものと勘違いしていたが少しして合点がいく。

「あ、そういやサーヴァントって言ったっけか。今も近くにいるのか」
「……ええ、ちょうど焦凍の右隣にいるわ」
「どうも呼ばれて飛び出て天草です」
「うおっ!」

 複雑そうな表情を浮かべる彼にナマエが答えると天草は普段のカソック姿で霊体化を解きにこやかな笑みを浮かべ轟を驚かせてみせた。まんまと驚かされた轟は目を見開き焦って数歩後退る。
 その様子がおかしくてナマエが失笑すると彼女を見やった轟の眉間にしわが出来る。

「……」
「ふふっ、ごめんって」

 全く悪びれる様子のないナマエの指が彼の眉間に触れ、しわを伸ばすと彼の機嫌はすぐに戻る。普段の大人びているナマエも好いが、こうしてふとした時に年相応の、少女らしい一面が見れる瞬間が轟にはたまらなく心地よかった。

「(ああ、良いことだ)」

 一方で轟に距離を開けられた天草は彼の子供らしい感情を微笑ましく感じつつ、悪戯っぽく笑うナマエの姿に胸をなで下ろしていた。
 ナマエが己の運命を忘れられている間だけは彼の心も安らげる。幸いこの学校に在籍しているうちはいつか訪れる結末を考える暇がないくらいに忙しいはずだ。

[12]放課後の天使