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「三時間が二つ、四時間と二時間半がそれぞれ一つずつだな。二時間半のは三時間と一緒に確認するので良いか?」
「ああ、それで構わないよ」

 清光のお陰で手入れ部屋の使用回数が減り資源に余裕があるのに加え、期間限定で鍛刀出来る刀剣があるとのことで久々に何本か鍛刀することにした。
 どうせならばと以前審神者会議で話題に上がったレシピを試して、その結果は上々。後は仕上がるのを待つだけだ。

「じゃあこの後はどうする? 部屋で何か書き物でもするのか?」
「うーん、そうだね。少し針仕事をしようかな」
「お、刺すことなら手伝うぜ!」

 熱気の籠る鍛刀部屋を後にし、執務室へと戻る私の後ろを意気揚々と付いてくる御手杵。刺すことしか出来ないと自分を揶揄する彼だがその実は何でもそれなりに熟すことが出来る器用貧乏なだけである。

 執務室に戻り早速針仕事に取り掛かかった彼は、黙々と私の指示通り器用に針を刺していく。こういった細かい作業が好きなのかその表情は楽しそうだ。
 それを見て私も自分の作業に取り掛かったのだが、如何せん彼は集中力が長続きしないタイプらしくその沈黙もすぐに途切れる。

「……夕飯何かなぁ」
「そういえばそろそろキャベツが収穫できると言っていたからそれを使った料理かもしれないね」
「キャベツ料理……サラダか野菜炒めくらいしか思いつかねぇ」
「ふふ。燭台切ならロールキャベツあたりを作ってくれるさ」
「ろーるきゃべつ? 何だそりゃ」
「端的に言えばハンバーグをキャベツで包んで煮込んだ西洋料理だよ」
「ハンバーグ! 俺あれ好きだぜ」
「ふふ。ロールキャベツだったら良いね」
「楽しみだな!」

 そこで会話は途切れ、再び作業に集中するもまた暫くして御手杵に話し掛けられては他愛のない話を交わすこと数回。

 ふと机上に据え置かれている時計を見やれば鍛刀した刀剣の確認をすべき時間になっていたので切りの良い所で作業を終わらせる。
 同じく切りの良い所まで終わらせた御手杵に礼を言って布と針を受け取り裁縫箱へ仕舞う。彼のお陰で大分進んだ。
 それから鍛刀部屋へと向かう彼は終始そわそわとしていて、何だが見ているこちらにまで緊張が伝わってきそうだ。

「あー、どうせなら日本号来てくれればいいのにな……」
「何も来ないと決まったわけじゃないさ。来ると願えば来るものだよ」
「……そっか。そうだな。よし日本号来い!」

 上機嫌な御手杵に誘われるように非番であった浦島とその兄の蜂須賀、内番を終わらせて昼酒をあおっていた次郎太刀がやってきて、みんなで新入りを迎えることに。
 意を決し、勢い良く戸を開けた彼に続いて鍛刀部屋へ足を踏み入れる。籠っていた熱気全身を包み込み少し気持ち悪い。
 中では未だ鍛刀中の一振りを除いて、仕事を終えた式神から一振りずつ受け取って確認する。

 彼の願いが届いたのか、二時間半は太郎太刀、三時間は獅子王と、今回の期間限定鍛刀対象の日本号。
 いずれもまだ本丸には居ない刀剣男士で、話題のレシピ様々という結果である。

「うわっ、マジで日本号来た……」
「言っただろう? 来ると信じていれば叶うものさ」
「流石……何つーか、神がかってる?」
「ふふ。これでも神様だからね」

 世間一般でいうドヤ顔をしてはいるが、まぁ正直に言うと私も内心とても驚いている。
 他の審神者の話によればやはり鍛刀にも運がついて回るものらしく、今回のように欲しい刀剣が手に入ることは奇跡に近い幸運なのだ。

 早速霊力という名の神力を注ぎ込み三人を顕現させる。
 顕現した刀剣男士からそれぞれの自己紹介を聞くのだが、やはりと言うべきか三者とも不思議そうな顔で私を見つめた。
 ここの本丸に顕現される刀剣男士はみな同じ反応をするのでもう慣れている。

「あんた、只者じゃねぇな……」
「流石は神だね。確かに、私は普通の人間とは違うよ」
「やっぱりな」
「私はこの本丸の審神者だけれど本職はヨノモリ社の祭神さ」

 このやり取りももう何回目だろうか。もはや私の自己紹介文として定着しつつあるそれ。
 私の言葉を聞いた獅子王の目がきらきらと輝き始めて、弾かれたように私の手を握り口を開く。

「ってことはあんた神様なのか!? すげーな!」
「今は君も神様だろう。もう少し落ち着いたらどうだい」

 はしゃぐ獅子王にを制止したのは私の言いたかったことを代わりに言ってツッコんでくれた蜂須賀だった。

「だって神様っつったらもっとこう、じっちゃんみたいなの想像してたからさ!」
「うんうん、分かるよ! 俺も主さんが想像より可愛いくてテンション上がっちゃったもん!」
「だよなだよな!」
「浦島……まったく」

 こうもストレートに褒められると照れくさいが悪い気分ではない。
 早速獅子王と意気投合する浦島に、困ったように笑う蜂須賀は実に兄然としていて、何だが微笑ましい。
 それから一番背の高い次郎太刀に目をやれば既に弟の次郎太刀と挨拶を交わしており、こちらは兄弟というより酔っぱらいに絡まれている一般人という言葉の方がしっくりくる現状だ。

「あーにーき! やーっと来たねぇ!」
「次郎太刀が先に来ていたのですか……にしても酒臭いですよ」
「あっはっはっはっは! んな細かいこと気にしてたら禿げるよ!」

 完全に出来上がっている次郎太刀に、太郎太刀は不出来な弟ですみませんと頭を下げるが私は特に気にしていないと、苦笑する。
 二組の兄弟でこうも違うと寧ろ見ていて楽しいもので。

「よう日本号!」
「おう、御手杵じゃねぇか」
「今は出てるけど蜻蛉切も居るぜ」
「正三位揃い組か! 良いねぇ。酒の肴にゃ十分すぎる」

 日本号の方も特に心配する必要なく溶け込んでいる。この様子ならば三振りともすぐにここでの生活にも慣れるだろう。

 壁掛け時計に視線を移せばそろそろ第一部隊が帰城する予定時刻。今日は忙しない。
 蜂須賀たちに本丸の案内とここでの規則等を教える役目を頼めば快く了承し、新入りを引き連れて鍛刀部屋を出ていった。
 それと入れ替わるようにひょこりと顔を覗かせたのは瑞希で、私を視界に捉えると満面の笑みで抱きついた。

「名前ちゃんここにいたんだね〜! 探しちゃったよぉ」
「? 社の方に問題でもあったかい?」
「違う違う。単純に僕が名前ちゃん不足で死にそうだっただけ」
「そう。……瑞希、暑い」

 現行で鍛刀作業が行われている室内は熱気が篭っており、そんな状況で抱きつかれれば暑いのは当然で。
 それでも離れようとしない瑞希を引き剥がしてくれたのは帰城した清光だった。

「主ただいまー! って瑞希離して! 主死にかけでる!!」
「おかえり。ご苦労様、そしてありがとう、助かった……」
「うぅ、名前ちゃん、ごめんね……」
「いいよ、気にしてない。……それで、清光、報告をお願いするよ」
「おっけー」

 場所はいつもと違うが、いつも通り清光から出陣報告を受ける。
 今日は少し難度の低い桶狭間に向かっていたため被害は刀装数個だけ。道中、木炭と冷却材を拾ったので他の隊員が資源置き場へ置きに行ったとのこと。

「そうだ、さっき御手杵が見ない顔を連れてたけど新入り?」
「ああ。太郎太刀と獅子王と日本号だよ」
「大太刀と太刀と槍かー。暫くは演練に出して大太刀は他の大太刀と組ませて連携良くして、太刀は通常通り練度上げて、槍は刀装が限られるから適切な合戦場を見極めて……」

 すぐさま刀帳を確認した清光は顎に手を当て悩みながらも彼らの刀種に合わせた育成方針を決めていく。
 本来ならば審神者である私がすべきことを、戦事に疎い私の代わりにこうして彼が熟してくれている。いやはや清光には頭が上がらない。

 そんなことを考えているうちに最後の一振りが打ち上がったらしく、式神に刀剣を手渡される。

「新しいお仲間か。変なやつじゃなきゃいいけど」

 全ての鍛刀作業を終えた室内は少しずつ室温が下がってきて、先程よりは大分過ごしやすくなってきた。
 受け取った、おそらく太刀であろうそれを、確認もおざなりに顕現させる。

 するとすぐさま私のではない神気が辺りに広がり、同時にその場にいた者に緊張が走った。
 分霊でこれ程の神気ならば本科はさぞ名立たる名刀なのだろう。

「三日月宗近という。よろしく頼む」

 青い狩衣を纏った男が、他の刀剣男士とはまた違った小奇麗な顔で静かに微笑んだ。
 彼もまた、今まで顕現してきた刀剣男士や数十分前の三振りのように私の存在に疑問を抱くものだと思い込んでいた。
 故に彼の次の行動は心底驚いてしまった。

「会いたかったぞ」

 そう言って私を正面から包み込んだのだ。刹那、背後から瑞希と清光の悲鳴が上がる。
 抱きつかれたこともそうだが、何よりも彼の言葉の意味が分からず戸惑っていた。

 生憎私には彼と出会った記憶などなく、刀の展示には友人の誘いで数回行ったことがあるがいずれも三日月宗近は見ていなかった。

「ええと……どこかで会ったかな?」

 分霊を下ろし刀剣男士とする神聖な作業は今より遥か未来に発案されたものだから、その遥か未来までの間の何処かで彼の本科に会っているのだろうと推測し、無理やり溜飲を下げる。

「……そうか。この時分ではまだ出会っていなんだな」
「?」

「こら!」
「あなやっ」

 スパーン。小気味よい音と共に三日月の悲鳴が聞こえたかと思えば彼から解放され、すぐさま瑞希と清光に腕を引かれ二人の間に収まる。
 叩かれたであろう後頭部を押さえる三日月が見つめる先には今剣が腕を組んで立っていた。

「三日月、あるじさまがこまってるじゃないですか」
「今剣……感動の再会だというのに」
「まるでいみがわかりません! もう、このほんまるでの“るーる”をきっちりおしえてあげますからついてきなさい」
「あなやぁ〜」

 練度の高い今剣に軽々と引っ張られていく三日月を見て、ざまぁみろと舌を出している瑞希と清光。
 私はその様子をどこか他人事のように見ながら、とりあえずシャワー浴びて汗を流したいなぁなんて考えていた。


 書きたいものを詰め込みすぎて分かりづらくなってしまった……


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