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▼ハガレン→進撃07

 サバイバル訓練の最中、左腕が崩れてゆく感覚にいつか義肢装具屋の彼女の言っていた言葉が頭に浮かんだ。やはり機械鎧は専門家に調整してしてもらわないと駄目だ、でないとこうも簡単に外れてしまう。
 一応機械鎧の仕組みについては学んだが素人は素人に変わりなく、私が錬成した機械鎧はオイルの差し忘れが原因により服の袖からバラバラに外れ落ちた。これが兵站訓練だったら大変なことになっていた、サバイバル訓練で良かった。
 それに今日はもうどこかで休むつもりだったので丁度よい、水溜まりに落ちたそれらを右手で拾っていると誰かが後ろから近付いているのが分かった。

「名前か? どうしたんだ、そんな所にしゃがみ込んで」
「拾いもの。大切な物を落としてしまったから」

 背後にいたのはライナーだった。この世界にはない機械鎧を見られたら何を言われるか、何を勘ぐられるか分かったものではない。特に彼はなかなかに聡い。
 辺りは暗いが一応念には念を入れ、彼に見えぬよう配慮する。幸い肘間接部分が外れただけだったのでベアリングやボルトなどの細かい部品数点を左手にしていた手袋に入れ、後は腕部分を持つ。
 長いマントのお陰で私の左腕がないことも、その左腕を抱えていることも彼には見えていない。私が立ち上がったのを確認してライナーが再び話しかけてくる。

「大丈夫なのか?」
「ええ、全部拾ったから」

 あとはどこか雨風が凌げる場所を探すだけ。


「なあ、名前は巨人にあったことがあるか?」
「……ええ、あるわ」

 彼の真剣な表情に、私も真剣に返答する。


「これから話すことは紛れもない事実だ。驚かないで聞いてほしい」

「その時の巨人は俺なんだ。とある理由があってシガンシナを襲った」


「やっぱり、あの時の巨人はライナーだったのね。ごめんなさいね、あの時痛かったでしょう?」
「いや、気にしないでくれ。あの時は俺も、その、悪かった」


「……怖くは、ないのか? 巨人である俺が、俺たちが……」
「私は巨人に恐怖したこともなければ彼らを憎いと思ったこともないわ。ただ純粋にこの世界について、貴方たち巨人について知りたくなっただけよ」

 私は自分の思ったことを正直に話した。
 人類は彼ら巨人を憎むべき敵だと定めているが私にはそうは思えなかった。巨人が善だと言っているのではなく、悪とはみなしきれないのではないかと言いたいのだ。
 私たちは彼らについて知らなさすぎる。彼らの行動原理、目的、全てが不明。人間が美味しいから食べるのか、それともそうしなければいけない理由があるのか、はたまた周りが食べているから己も食べているだけなのか、何も解明されていない。
 知らなければいけない事だらけだ。

 人が巨人に成れるのならばその質量の差はどこから補っているのか、質量保存の法則で成り立っていた世界で生きていた私にとって巨人化の原理は是が非でも解明したい謎だ。

 この世界にも海が存在するのであれば別の島、元の世界で言う日本のような島国も存在するはず。知りたい、見てみたい、そういった知的探求心が私を動かすのだ。


「貴方の秘密を知ったのだから私の秘密も教えてあげるわね」

 そう言って背後に隠していた機械鎧とそれが取れた左腕を露わにする。刹那、彼が息を飲み大きく開かれた愛で私を見つめた。

「何だそれは……左腕!? まさか、巨人に……?」
「違う違う、これを失ったのはこの世界に来るずっとずっと前」
「この世界……?」

 辺りを静寂が包む。無音ともいえるその一瞬、ライナーの顔に

「そ、私はこの世界の人間じゃないの」


 この世界の人間ではないことと、向こうの世界では軍にいたことを、彼と同じように正直に話した。

「……何故そんな重要なことを俺に言ったんだ」
「言ったでしょう? 貴方の秘密を知ったから、私の秘密も教えてあげるって。それが等価交換」
「等価交換?」
「何かを得るためには同等の代価が必要になる。それが錬金術における等価交換の原則」


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