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▼ハガレン→進撃01

 ウォール・マリア内シガンシナ区にある修理屋といえば少しは有名な店だ。
 若い女一人で切り盛りしていることも理由の一つではあるが、何より修理屋としての技術は内地からわざわざ修理を頼む人がいるくらいだ。

「ご依頼されていた品です。ご確認下さい」
「……おお、素晴らしい! 買ったときより綺麗に直ってるよ、ありがとう」

 ガラス細工のオルゴールの修理依頼を持ち込んだ男性は元通り綺麗な状態に戻ったオルゴールを見て、その出来の良さに感動していた。
 一度分解して再構築しているため復元とも修復とも言い難いが、そんなことを説明しても無駄だろう。彼らはこの店に、そんな能書きを求めているのではない。
 代金代わりに大量の野菜を頂く。金銭よりも物資の方が買いに行く手間が省けて私的には有り難い。
 客を見送り店の奥へと野菜を運ぶと、早速調理に取りかかった。と言っても鍋に材料を入れて錬成するだけの簡単な作業だ。
 仕事や研究に関しては熱心だが身の回りのことにはズボラかつすぐ楽をしようとする傾向にある、なんて上司に言われたのを思い出した。全く持ってその通りである。
 しかし一々調理するより生ゴミ排出量も減りエコノミーだと考えられる。出来上がったシチューの味見をしながら余った野菜を固形食料や缶詰め、金平糖といった非常食の類に錬成して持ち運びやすく、いつでもここを出ていけるようしておくのを忘れない。

 この世界へ来てからも錬金術師としての本分は忘れていない。錬金術という言葉も技術も関連書物も一切存在しない世界で、錬金術の研究を怠ってはいない。この世界の仕組みを学びそこから錬金術に利用出来るものは利用していく。
 前の世界での研究成果は全て頭の中に入っている。幸いなことに英語も母国語である日本語もこの世界には存在していないので暗号化する必要なく研究書を作成できた。日記帳のようなものが三冊、この世界での研究成果だ。
 シチューを食べつつ今後のことを考える。そろそろ別の区へ移住するべきだ、いつまでもここにはいられない。それは錬金術という外法を守るため、この世界の秩序を乱さぬため。

 シチューを食べ終えた頃、外が妙に騒がしい事に気が付いた。どうしたのだろうかと、外を確認するかどうか決めかねているとドアを叩かれ、返事もしないうちに何者かに開けられた。
 それは物取りや店を訪ねてきた客でもない、言わずもがな緊急事態だ。

「巨人だ! 巨人が壁を破壊したんだ! あんたも早く逃げろ!」
「! わかりました」

 その人は用件だけを伝えると走って行ってしまった。私はあるだけの金銭と食料、研究書を鞄に入れトロスト区へ移住する決意をした。
 この騒ぎはトロスト区まで伝わっているだろうから騒ぎに乗じれば潜入もとい移住は簡単に出来るだろう。なに、守りを強くしたところで錬金術を使えば簡単に入れる。
 準備と装備を整え外へ出れば破壊された外壁と、その穴から侵入してきた巨人たちが目に入る。中でも、外壁の高さを軽く超える身長を持つ巨人に目を奪われた。

「!……あれが、巨人」

 その時初めて、巨人と呼ばれる生物を見たのだが、恐怖の類は生まれなかった。それどころか彼らに対する知的好奇心が沸いた。ただ純粋に、知りたいと思った。
 彼らは手当たり次第に人間を掴み上げ口へと放り込み咀嚼している。かつて対峙したことがある、暴食の名を与えられたホムンクルスの食事風景によく似ていた。

 付近に人間の目がないことを確認し手を合わせれば、家はものの数秒足らずで瓦礫へと変わる。誰がどうみても巨人に壊された家屋。私がここにいた痕跡を消せれば十分だ。
 その場から離れようとしたまさにその時、巨人がすぐそこまで迫っていた。私は少将の地位を与えられた軍人だ、例えあの頃より多少勘が鈍っていようと油断などは決してしていない。
 ただ彼らの一人が私に気付いて近づいてきたのだ。後に鎧の巨人と呼ばれる彼は人より何十倍も大きい歩幅で私との距離を縮めてゆく。
 これは逃げ切れない、そう判断して足を止める。しかし諦めた訳ではない。案の定私は鎧の巨人に捕まったが恐怖はない。
 これが巨人、人類が憎むべき敵だと定めている生き物。私が見詰めると、彼が一瞬戸惑うように動きを止めた。
 それも束の間に、鎧のように硬い筋肉質な手が私を掴む力を強める。

「っ、……貴方に恨みはないけど、ごめんなさいね」

 唯一自由に動かせた右手で指を鳴らす。ぱちん、乾いた音と共にすさまじい爆発が起き、私を掴んでいた手が緩んだ。その隙に手から抜け出る。
 鎧の巨人の顔付近に、瞬時に水素を錬成し指ぱっちんで静電気を発生させることにより簡単に大きな爆発を起こすことができる。これは雨の日でも有能な水素爆発だ。
 ちらりと背後を見やれば鎧の巨人の顔が私の起こした水素爆発により赤黒く焼けただれていた。すぐに回復するとは言え、多少なりとも罪悪感を感じるのは私が彼ら巨人に何の恨みも辛みもないからだろう。
 私は物陰に隠れるように走りながら、シガンシナ区を後にした。


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