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▼異国溺泉海賊編05

「何を買えばいいのかしらね? とりあえず日用品とか?」

 これから船上で生活していくうえで必要になるであろうものを見繕いながら、異国溺泉の情報を集めていたがこれといった収穫は無し。
 メリー号が停泊してある港へと歩いていると、ふと武器屋らしい店が目に留まった。どちらともなく足を店へと運ぶ。

「兄妹ですかな?」

 店主と思われる壮年の男性が話しかけてきた。二人とも中華風の服を着ているので兄妹と間違えられたのだ。

 広げられた扇は黒地に赤い花が散りばめられたデザイン。良牙はこの花の名前を知らなかったが、美しいと感じた。
 ちなみにその花は牡丹といい、彼らの世界では中国の国花として有名だ。日本では島根県の県花とも定められている。もともとは薬用として、中国から奈良時代に渡来したとされる。
 美人の座り姿を形容する言葉『座れば牡丹』が馴染み深いだろう。花言葉は「王者の風格」「高貴」「壮麗」などとある。
 まさに彼女に相応しい花なのだが良牙はそういった事に疎く花の名前すら分からないのだが、直感的に名前に似合うだろうと考え、更にはこれを持ち優雅に舞い踊る彼女を妄想して口元を緩めた良牙だったが、直ぐに意識を取り戻し店の主人に扇について尋ねた。その間僅か三秒。

「これは?」
「ああ、それですかい」

 主人の説明によるとこれはただの扇ではないらしい。そもそもただの扇が武器屋で売っている訳がない。

「それは鉄扇といって、まあ簡単に言えば鉄で出来た扇子ですよ。護身用に買っていく人も多いんです」

 よく見ると紙の部分は無く、扇部分に骨組み果ては金具までもが鉄で出来ている。唯一金属以外の素材は房紐のみで、色は鉄扇に描かれた牡丹と同じ赤。
 使い方次第では護身だけではなく攻撃にも転用出来る。

「鉄で出来てるんで重いんですよ」
「名前さんなら軽く持てるんじゃないですか?」
「そうね」

 ひょい、そんな効果音が付きそうなくらい軽々と鉄扇を持ち上げて見せた名前に、店主は目を丸くした。

「こりゃたまげた! 成人男性でも重く感じる代物なのに! お嬢ちゃん何もんだい?」
「うーん、格闘家?」
「なぜ疑問形……」



「わりぃ、おれ死んだ」

 ルフィが笑う、刹那、轟音。そして落雷。
 皮肉なことに二十二年前、ルフィがいた死刑台で今わの際に笑った人物が居た。それがかのゴールド・ロジャーだ。彼もまた、大海賊時代の幕開けとも言える宣言の後にその生涯を笑って終らせたのだ。
 かつての海賊王とまったく同じ事をしたルフィを気に入り、天が彼を生かしたとでもいうのか。死刑台が破壊されるほどの雷が落ちても、全身ゴムで出来た彼の体は無事だった。
 彼が悪魔の実を食べたゴム人間であることを知らない名前と良牙はなぜ彼が無事なのか頭の中が疑問符でいっぱいだ。
 しかし久能や八宝斎も雷くらいでは死なないのでそういう人間もいるのだろうと考えるのを直ちに止めた。

「あ、雨……」

 青天の霹靂、そして大雨。今までの青空が嘘のように一変し、曇天の大雨へと変わってしまった。

 雨に打たれた良牙は当然黒仔豚へと変身してしまい先ほどの名前を守る宣言など虚しく、行き交う人ごみに踏まれぬよう彼女に守ってもらうのだった。
 名前は黒豚姿の良牙を抱え彼の衣服をかき集めると船へと走った。途中広場のほうで大きな雷が落ちたのを見て、何らかの事件に巻き込まれそうだと格闘家の勘が言う。



 名前は螺旋を描くようにステップを踏み、拳を高く突き上げた。

「飛龍昇天破!」

 飛龍昇天破とは、相手の闘気と自分の冷気を利用し上昇気流を発生させ竜巻を起こすことにより相手を吹き飛ばす技である。
 自然系の能力者であれど一度竜巻に飲み込まれてしまえば逃げ出すのは困難を要する。むしろ自然系だからこそ一度気流に巻き込まれたら脱出不可能になりやすい。
 スモーカー諸共バギーの一味は竜巻の餌食となった。スベスベの実を食べあらゆる物理攻撃が無効となったアルビダも、竜巻の風圧には勝てず。



「“剛力少女”名前。だって、良牙くん」
「“そのペット”Pちゃん……だと……」

 記念にとっておこうと二枚の手配書を折りたたみ愛用の鞄に仕舞い込む。


 ここまでしかないよ!
 たぶんこの後はくまさんににきゅにきゅの実で異国溺泉のある場所まで飛ばしてもらって元の世界に帰るよ!


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